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人は、なぜ、危険行動を取ってしまうのか。

2023年04月25日 | 人材育成・コミュニケーションのお話

 労働災害が非常に多い林業。

 特に伐採・伐倒に関する作業中の事故が多く、安全指導や安全教育を重ねても、その傾向は下がる気配がありません。

 

 今回は、「人は、なぜ、危険行動を取ってしまうのか。」をテーマに、人間心理に基づいてお話をします。

 危険行動を選択してしまう人間の心理を理解しないと、どんなに優れた安全指導や安全教育を行っても、その効果は現れません。

 

 人は、ある行動を行う際、危ないと分かっていても危険行動を選択してしまうことがあります。

 なぜ、危ないと分かっているのに、危険行動をしてしまうのでしょうか。

 

 「いつも大丈夫やから」

 「大したことない」

 「気を付けていたら大丈夫」

 など、都合の良い解釈をして、自分自身に言い聞かせています。

 

 この心理は、「自分自身にとっての利益」が関係しています。

 その人にとって、効率性や快適性など求めている利益が得られるなら、その人は、危険行動を選択してしまいます

 ポイントは、「その人にとっての利益」です。

 あなた自身が利益と感じていなくても、その人自身が利益と感じていれば、その人は、危険行動を選んでしまいます

 あなたとその人で、得たい利益が違うということは、「価値観が違う」ということなので、その人が危険行動を選択した理由を、あなた自身は全く理解できないのは、利益という価値観、この点が違うからです。

 だから、同じ教育、同じ指導をしても、ここの心理が違えば、教育効果・指導効果の結果が異なってしまいます。

 

 例えば、「チェーンソーを使用する際、防護ズボンを履かない人」の場合。

 

 防護ズボンを履きたくない理由を聞くと、大半は「動きづらい」、「暑いから」という答えが返ってきます。

 これは、防護ズボンを履くことによって、膝が上がりにくい、重いから動きが鈍るなど、今までの動きが取れない、つまり「今までの効率性」や「今までの快適性」という利益を失うからです。

 また、「いつもは、チェーンソーを使う際、防護ズボンを履いている」が、「今、防護ズボンを履いていなくて、ほんの少しだけチェーンソーを使う」とき、ついつい防護ズボンを履かずにチェーンソーを使ってしまう時って、ありませんか。

 この場合、十数秒のために防護ズボンを履く、車まで防護ズボンを取りに行く、などの行為が面倒と感じてしまいます。

 この 面倒を省略 することで、「効率性」という利益が得られるので、ほんの少しだけ、チェーンソーを使うとき、ついつい、防護ズボンを履かないという危険行動を選択してしまいます。

 

 これまで防護ズボンを履かずに作業してきた人たちにとって、防護ズボンを履くという行為は「これまでの動き」が失われる、つまり損失になるので、「これまでの動き」という利益を得るために、防護ズボンを履かないという選択を選んでしまいます。

 

 ちなみに、防護ズボンを履くという選択をした人たちは、「これまでの動きを失う」が、それ以上の利益が得られるという心理が働いています。

 それ以上の利益とは、例えば、防護ズボンを履かずにチェーンソーで怪我をしたら、「労災保険がおりない」、「法律違反になる」、「会社に迷惑がかかる」など安全、保障、コンプライアンス、安心という利益です。

 ルールを守る、法律を守ることで、何かあった時に助けてもらえるという安心が利益になります。

 防護ズボンを履かずにチェーンソーで作業していると、「万が一、何かあったらどうしよう。」という不安が纏わりつきます。

 防護ズボンを履くことで、その不安が払拭されるので、安心して作業に集中できるという「快適性」という利益が得られます。

 ほかにも、「安全意識が高いな。と褒められる」など組織内や業界内で評価されるなど承認欲求が満たされるという利益もあります。

 

 このように、危険回避を選択する方が、得られる利益は大きいという心理が働けば、人は、危険回避の行動を選択するようになります。

 

 僕自身、この心理を理解した上で、作業員が自ら進んで防護ズボンを履く方法を考えました。

 その方法は、「あらゆるメーカーの防護ズボンを集めて、試着会をする」という方法です。

 「動きづらい」という感覚は、人それぞれ異なります。

 あらゆるメーカーの防護ズボンを集めて、試着することで、自分の体や動きに合った防護ズボンを選び、これなら履きたいという考えにシフトするよう誘導できないかという思惑です。

 元々、作業員の頭の中には、「履かなきゃいけない、分っているんだけどな・・・」という認識があったので、試着会という最期の一押しで、「防護ズボンを履く」という危険回避という行動を採用するように天秤を傾けさせるという試みです。

 これによって、防護ズボンの着用率は大きく上がりました。

 それでも履かないという選択肢をする者もいますが、周りで着用する者が増えたので、その姿を見て、以前より着用するようになったと思います。

 まずは、少しでも着用させるところがスタートです。

 

 繰り返しますが、危険行動を選択することで、その人にとって、効率性や快適性という利益が得られるなら、その人は危険行動を選択してしまいます

 そして、ここで言う効率性や快適性は、明確に数値で表された利益ではありません。

 その人が感じる利益で、数値化された実際の利益とは別物です。

 

 「労働災害の発生が減少すると作業効率も上がり、生産性や収益性が上がる。だから労働安全は大切だ。労働安全に努めよう。」という風に言われますが、その人が、利益だと実感していなければ、その言葉は響きません。

 その人が、危険回避行動を選択することで、その人にとっての利益にならないといけません。

 

 もし、労働安全と利益の関係性を示したいのであれば、例えば、それをグラフや数値化によって、視覚的に分かるように明確にし、その結果が、危険回避行動を選択し続けた行為によるものだと、作業員全員が実感し、危険行動回避ってええなぁという共通認識にする必要があります。

 

 正直、とても難しく、実現困難なことを言ってます。

 そう、難しいから、人は、簡単な行動を選択してしまいます。

 危険行動を選択する者には、罰を与えるといった、簡単な方法を・・・。

 

 例えば、「防護ズボンを履かない者は減給」などの罰則規定を設けても、その効果は長続きはしません。

 これも人の心理で、罰で縛ろうとすると、罰から逃れるため、見えないところで防護ズボンを履かないなど狡猾な行動を選択することになり、益々、危険行動を助長させてしまいます。

 結構、罰を与えようとする方が多いのですが、それは長続きしない上、監視の目が届いていない状況下では、危険行動を選択し、逆効果になります。

 

 だからこそ、正しい対話やコミュニケーションが必要となります。

 正しい対話・コミュニケーションを図り、作業員や従業員の考えや心理を知ることで、どうすれば危険回避行動を選択するようになるのかが、見えてきます。

 

 次回は「伐倒」を事例に、この続きをお話ししたいと思います。

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