馬の話に
幾年ぶりになるのか、計算がいるほどだが---。私が小学生時分だから、55年くらい前に訪れたことのあるお家を訪ねた。
そこは父の兵役中を知る人が住んでいた家。現在は92才の奥さんと子供さん夫婦が住まわれている。幸運にも奥さんと話せる機会を得た。まだ大きな声の持ち主だった。「Tちゃんかいね」「はいそうですよ」「久しぶりじゃね---」「もう50年以上---」。
「うちのお父さんは、Tちゃんのお父さんを戦地で知っちょるんよ。こわい、部下から恐れられた上司じゃったんと」「フーン。小さい頃、戦地で知った人と、ここで出会ったと聞いたことがある。そんな縁で、時々一緒にマージャンをやっていた」「うんそうそう。お父さん、働き者じゃったろう。牛もたくさん飼って」確かに、私がもの心ついた時には家にちち牛がいた。
「うちにも牛が居たんよ。牛を使って田を耕すと足が遅くて時間が掛かった。うちのお父さんはそれを変えようと馬を飼った。Tちゃんのお父さんが、ここにきた時『おうちが倒れるのが先か、馬が倒れるのが先か。どっちかじゃのう』と言われた。うちのお父さんもよく働きよったよ」「そう---。」話すのが嬉しそうに見える。
その日は寒い日だったが、縁側での雑談。寒さを理由に、相手を心配だとして話を終えた。がむしろ若い私が寒さには負けそうな程に、しっかりしていてお元気だった。口も回るが、熱い血もしっかり回っていることだろう。