甘露のようにやわらかな春の雨、
辛夷の幹にはりついた苔のみどりが
息を吹きかえし
うれしがっている。
ほほほゥ ほほほゥ
庭の隅々では石仏たちが睦みあっている。
ものみな芽吹きのこのとき
約束どおり
雨は恵みを連れてやってくる。
春の雨傘さすほどのこともなく
ちょいと濡れてもみたくなって
そのまま庭先に出ると
雨が仄かににおってくる。
遠い日の静かの海の底のような
シダ類が茂る深い森の奥のような
ぼくはアンモナイトになって
あるいは小さな精霊になって
とても懐かしい水のにおい・・・・・
とろっと滴が耳のうしろをしたたり
なんともこそばゆい思いだ。
とつぜん、
手紙を書きたくなって部屋にもどる。
正直は死語となりしや梅の花