月も風もなにもかも凍てついた真夜中、
独りぬるま湯に浸っていると
沈黙の闇の深みへと引き込まれるような気がする。
無音浄土・・・・
なにも思わず なにも考えず
いつしかぼくは羊水のなかを漂っている。
おだやかで平和な安心の世界。
偶には外の様子が騒がしく
ちょっと不安になることもあるが
たいがいはなにも思わずなにも考えず
ぷかぷかぷかぷか たゆたうている。
その羊水の中で、かつ丼の味を覚えた。
へその緒から優しく流れこんでくる醍醐味に育てられ
その後のぼくをくいしんぼうにした。
記憶は今もときどき蘇えり
かつ丼を無性に食べたくなることがある。
ぼくの体はベジタリアンには向かず
ときどき肉を摂らないと血糖値が下がって震えがくる。
(水子の魂百までも・・) ということも。
そう、明日はかつ丼にしようか・・・・・
くっしょん!
羊水がすっかり冷めて
あわててボイラーのスイッチを入れる。