ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

          回転ドア

2005-06-28 12:41:27 | 
          ドアボーイの白い手袋が
          妙にうやうやしくて
          一瞬
          ためらいが身体を硬くする

           いち にぃ さん!

          胸の奥でリズムをとり
          一人づつ
          せまい空白に自分を滑り込ませる
          上手くやるにはタイミングが大事

          「一緒じゃなきゃ いや」
          そんなことを言って
          ぼくを喜ばせたひとがいたような
          あるいはまぼろしだったような
          あれは小雪のふりかかる
          いかめしい門構えのホテル

          ふと寄り道してみたくなり
          回転ドアの前のたつ
          うやうやしくあの日と同じドアボーイ

           ひゅう ひゅう ひゅう

          ヒト形をしたいくつもの追憶が
          にび色の空へ吐き出されていて
          たったひとりのぼくは
          入るタイミングを失くしている


ハマボウフウ

2005-06-28 00:21:04 | 
          なにもかもかわいて
          こわれてはながれ
          ながれてはこわれ
          かぜのまにまにとどまることのない風紋

          聞こえているのですね
          うみなりに小さくふるえるハマボウフウ

          ないというのはうそだった
          自分を消され
          ゆめを閉じられ
          はるか異国の地で風化していく望郷

          ある晴れた日の
          うつくしい浜に起きた神隠し
          あしあとは風紋が消し去った

          なにもみえない
          なにもきこえない
          暗い海峡のむこうとこっち
          沖に船を見たという村人も
          いまはすっかり老いて
          ハマボウフウの花が
          ぼんやり夕闇に浮んでいる



木の精

2005-06-28 00:05:54 | 
          みどりの暗がりで
          小刻みにふるえている白いハンカチの数々
          
          何かを懸命に伝えたがっているような
          
          この木をハンカチの木と教えてくれたのは
          情報工学科の研究生
          ガラス細工のように脆く
          ルオー展を出てからもこの木を離れたがらず
          沈みゆく夕日の中に解けていった
          〈百年も昔のような気がする〉

          ミズナラの渇きが聞こえない
          クヌギの痛みが伝わらない
          桂の涙が見えない

          木から別れて人はいつのまにか
          木であったことを忘れ
          木を引き抜き 山を崩し
          森に行くにも車を飛ばさなければならず
          五月が来ると
          木の精になったひとが
          こうして懸命に
          ハンカチをふりつづける


炎昼

2005-06-26 10:27:12 | 
目玉ひん剥いて

鬼やんまが向かってくる

ずっと昔

箒で叩き落した

あの鬼やんま

青い炎

複眼に燃えている

ざあっと

上をかすめた



そのとき

ぼくは宙ぶらりん

風が巻く

赤い橋がとおざかる

おんなが

石になって見上げている

かりり

かり

かり

炎の音がして

ぼくのあたま

噛み砕かれる


見えてこない

2005-06-26 10:18:50 | 
〈馬〉という字を

じっと視つめていると

鬣をなびかせ

確かに疾走する姿になる

〈骨〉という字には

理科室のがいこつが視える

〈神〉という字を

じっと視つめていても

さっぱりその姿が視えてこない