春ゆうぐれ 2005-06-26 10:10:59 | 詩 でんきを点けようか どうか だぁれもいない倦怠 はるか ときのかなたで 里芋が煮えている 水が流れている 頚に かゆいを残し よろよろ 箪笥の隅へ 蚊が 逃げていく でんきを点けようか どうか
海鳴り 2005-06-25 23:30:12 | 詩 それは 黒い海岸松の枝をぬって 海鳴りとともにやってきた おんなは傍らで眠っている 見つけるためにやってきた 海の見える高台 またひとつ 塩辛い哀しみを拾ってしまうとは おんなが寝返りうって 薄眼を向けたとき それは 窓ガラスの隙間から忍び入ってきた 壁のくらがりに ぼんやり白い影がゆれて 微かに沈香がにおう (抽斗に残っていたもんぺの匂い) もう五十年も経ったというのに ときどきこうしてやってきては ぼくを見つめている 筒井筒の小面のように蒼白く さびしい口もと 何か言ったようだが その声は言葉にならないまま 海鳴りの底に沈んでいった はるかとおくの岬 ひとつの灯が滲んで 沖の闇が赤く染められている
そらの果て 2005-06-25 19:32:23 | 詩 そらの向こうには そらがあります そのそらの向こうにも そらがあります 渦巻きながら そらがそらを呑み込み 炸裂しては そらがそらを産み 漆黒のそら 輝きのそら 悲しみのそら 歓びのそら 怒りのそら 沈黙のそら ずっとずっと そらは つづいているようでした こんぺいとうの川では 小さな汽車とすれちがい それから へんてこな子と たいせつの涙をさがして 氷の星に 寄り道もしました いくつもの虹をわたり いくつもの神々に出会い そうしてまた永い虚無を どんどんどんどん 進んでいく と かなたに 覚えのあるそらが 拡がってきて さっき ぼくが歩きだした紺碧の そらに 辿り着きました そこでは 化石となった ぼくの足うらを 見つけました