生前ご縁のあった
津村喬さん。
私が津村さんの文章を紹介させてほしいと
ご連絡すると
いつも
「どうぞどうぞいつでも使って広めてください」
といってくださったので、
たまに
ご紹介させていただいています。
気功や気養生の参考に
ぜひお読みください。
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風邪と仲良くする
節分ではふつう「鬼は外」と言って鬼を差別排撃しますが、奥吉野の天河神社では「鬼は内」と言って鬼を迎える豆をまきます。自分のこわいものを追い払わずに呼び寄せて和解してしまうというのは、心理療法としてもなかなか質の高いものです。[天河社は役行者が連れていた前鬼、後鬼というふたりの鬼が開いた場所だから当然なのだが]
カゼ、やーね、とCMでもいいますし、一刻も早く治したいのもよくわかるのですが、それは「鬼は外」の発想で、むしろ風邪といかに仲良くするかを考えてみたいのです。
このことを論じた野口晴哉さんの『風邪の効用』は現代健康学の古典といっていいものです。病気は元気の現れ、というのがその基本的な考えです。調子が悪い、という相談を受けるとよくする話なのですが、たとえばからだに良くない腐ったものとか食べたとして、敏感な人ならばすぐに吐くことができます。吐いた胃は病気でしょうか、元気でしょうか。胃で出せなかった人は腸に毒が入ります。腸は高度の考える能力を持っていて、吸収してはまずいものが入ってくればすぐに下痢をして排除しようとします。下痢をした腸は病気でしょうか。下痢止めを飲んだりしたら腸は判断停止して血管に毒を入れてしまいます。これが排泄されるチャンスがもう一度あります。皮膚病としてです。毒を外に出そうとしている皮膚は病気でしょうか.ここで出せなかった毒は細胞に蓄積されて老化を促進する以外にないのです。
風邪というのも、ウィルスが原因だとしてもそれはいつも空気中にたくさん漂っているので、ウィルスがあるから風邪があるのではありません。内部の原因があつて外部の原因が作用するので、からだは必要なときに菌を呼び込んで風邪を引き起こすのです。どういう時が必要な時かというと、疲労がたまってからだの偏りが著しくなり、そのままで行くと内臓のアンバランスを起こして重大な病気のもとになりかねない、という時に風邪の菌の作用を借りてバランスを取り直すのです。
例えばストレスからの食べ過ぎが続くとからだが歪んできて、全身のパランスがこわれ、活力はあるのに不調感が続くようになります。ほうっておくと胃や腸の深刻な病気になりかねないのですが、自分でなかなかコントロールできない、という時に、からだは勝手に消化器にかかわるウィルスを呼び込んで、下痢から始まる風邪をひきます。そのまま頭に来たり鼻に来たり、のどに来たり、一巡することもあります。一見すると「病気が襲ってきた」ようですが、実はからだが自分で判断しての自己調節作用なのです。
なんでもそうですが、自分に取って思い通りにならない時が大切です。だってそれは「思い」が現実とうまく対応していないという知らせなのですから。
ずっと思い通りにいっていると思い込んでいて、あとでそうでなかったと知るよりは、いつもこまごまと思い通りでない体験をした方が安全です。思い通りにいかないというのは、自分自身や社会や自然との対話の形なのです。風邪もひけないからだはガンになりやすい、などと言われるのはその意味です。ガンに限らず、風邪は万病の元どころか万病の予防のもとなのです。
では風邪をひいたらどうしたらいいかというと、まず薬を飲むのは最悪です。病気によっては薬がやむを得ない場合も多いので、薬一般を排除するわけではありません。しかし風邪薬がないということはどのお医者も認めていて「発明したらノーベル賞もの」なんていいますが、むろん発明されるわけがありません。風邪はからだの必要で引いているからです。咳とか熱とか鼻水とかの症状を泊める薬はできていて、それが風邪薬といわれています。しかし下痢を無理に止めたら毒が体内に入るのと同様、体内の必要な反応の結果としての症状を無理に泊めると風邪の目的を達成できなくなり、風邪は長引きます。
そこで大事なのは、からだが何を目的に風邪を引いたかを読み取ることです。言い換えれば、私の生活のどこを変えろと言っているのかなと反省することです。
ストレスが過剰なら自分の気持ちの持ち方を変えるか、その原因を除去するかします。働き過ぎなら少し休みます。食べ過ぎなら軽い断食をしてみます。一般に減食をするとからだの自己治癒力は高まります。
すぐには分からないかも知れません。必要なのは病気と戦うのでなく、「病気にどうすれば協力できるか」という姿勢です。
協力の仕方はいろいろあります。生姜湯や梅生姜番茶などを飲んで汗をうまく出す(汗を出すと毒を出し筋肉をゆるめ体温調節をする効果があります)とか、足だけお湯で温めてやる足湯だとか、穏やかなグルーミング気功(自己マッサージ)をするとかがそれです。鼻を通すのに鼻の脇の迎香のツボをこするといった対症療法は実にいろいろありますが、それよりも深い内部の原因を解決することが大切です