住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
幅広く仏教について考える

人生にリセットは出来ない

2006年12月19日 16時46分08秒 | 様々な出来事について
ああ、こんな人生、一からやり直したい。そんな思いに駆られたことがある人は多いのではないか。あの時、ああしておけば良かった、なんでしなかったのだろう、言わなかったのかと、そんなことをあれこれ後悔したりする人もいるだろう。

私自身もう少し学生時代に勉強しておけば良かったと思うことしきりである。しかしだからといって、もう一度そのころに戻ってやり直せるわけでもなく、今できることをする、それしか私たちに残された道はない。本当にそれが正統な考え方なのであろう。

しかし世の中には本当に追いつめられて、様々な理由から自分自身の生きる場が無くなり、自殺に追い込まれてしまう人もたくさんいる。誠に非情なことではあるけれども、ご存知の通り日本には毎年3万人もの人が自らの命を絶っている。

生きているより死んでしまった方が楽になる。死ぬことしか考えられない。周りの人にとっても自分が死を選ぶ方が良いのだと思ってしまう。そして、死んでしまえばその人生の問題が解決すると思ってしまうのではないか。

しかし本当に死ねば問題が解決するのであろうか。仏教ではすべてに因縁ありと言う。すべてのことは原因と様々な条件によって成り立っている。自殺をしてもその因縁は次の来世に持ち越されてしまう。死んで楽になると思うのは早計なのではないか。人生にリセットは出来ない。この世で何とか今の苦しみをどのようにしてでも解決していくことしか方法はないのではないかと思う。

私たちは、みんな違う環境に生まれ、様々な出会いによって、認識の仕方、物事の捉え方、好き嫌い、見方考え方が異なる。同じものを見ても、聞いても、嗅いでも、口に含んでも、触れても、その人の過去の経験いかんによってみんな違う受け取り方をする。

私たちはみんな、これまでのそうしたすべての経験、つまり因縁の集積によって成り立っていると言える。それは、今生のことだけではない。過去世も含め、輪廻転生を繰り返してきたすべての因縁について無関係であることはない。だからお釈迦様の様々な過去世の因縁話がジャータカとして伝承されてきている。

袖振れ合うも多生の縁と言う。そんな取るに足りないような縁であったとしても、それが他の縁を呼び、その人の人生にとってとても大事な縁を生じることもあるということであろう。隣あわせた人たちのちょっとした会話からヒントを得て、大もうけをする人もあるかもしれない。或いは自分よりもっと不幸な人の話を聞いて、気持ちが楽になるということもあろう。

みんな誰しも苦しみの中に生きている。何もないという人はいない。みんな多かれ少なかれコンプレックスをかかえている。しかしある人はそれを自分のウィークポイントとして認識し悩み、他の人との付き合いを限定したものにしてしまう。しかし、ある人はそれを自分のキャラクターだと気楽に思ってたくさんの人に自分をアピールしてしまう。

また、同じことを言われても、別に意に介すことなく受け流し冗談を言い返せる人と、そのことに反発して喧嘩をする人もあろうし、その時はニコニコしていながら胸に思いをため込む人もあるだろう。そういう違いがどうしても生じてくる。そうした捉え方の違いは私たちの過去のすべての行いや経験、つまり因縁によって生じている。

人生は何のためにあるのだろうか。昔読んだインドの本に、神様に灯明線香をお供えする人として生まれ、死ぬときもそのようであったなら、何のために人生を過ごしたのか分からないであろう、とあった。

それは、人はたとえ信仰心を持って生まれたとしても、そこから神にどれだけ近づけるかが大切なのだ、生まれたときと同じ場所にとどまっているのなら何のために生まれてきたのかという意味であろうと思った。それぞれの人生でどれだけ心を成長させられるかが問われているのだと。

私たちの人生には実に様々なことが起こる。その様々なことがあって、そこから何事かを学び、人として成長するために私たちには時に過酷なまでの様々な試練がやってくるのではないだろうか。いいことばかりはない、それが人生なのであろう。だから成長することが出来る。

それぞれの因縁によってみんな生きる意味、目的が違い、だからこそ誰もがそれぞれに自分を生きる価値がある。自分を変えるチャンスは今何をするかということ。正に今の自分次第なのだということになるのではないかと思う。

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