住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
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四国遍路のススメ

2006年12月16日 13時16分57秒 | インド思い出ばなし、ネパール巡礼、恩師追悼文他
(以下は、大法輪誌平成19年3月号「特集真言宗がわかる」掲載のために著した文章の下書です。誤字脱字不整合があると思いますがご了承下さい。)

十六年ほど前に、四国八十八カ所を歩いて遍路したことがあります。実は、その前年、インドで出会った臨済宗の雲水さんから「真言宗の人なのに歩いていないのですか」と言われ、「これから歩く予定です」と答えてしまったのでした。

臨済宗では、眼病を癒すために四国を歩き、行き倒れた雪渓寺で出家され、昭和の白隠さんとも言われた山本玄峰老師が何度も四国を歩かれたことから、今でも徒歩遍路に出る雲水さんが多いとのことでした。

「四国を歩くと歩いただけ坐禅ができるようになりますよ」とも言われ、その気になって歩いたのです。教えられたようにビニール紐で草鞋を編み、前に頭陀袋、後ろに寝袋をくくりつけ、衣姿に脚絆を巻いて網代傘をかぶり、錫杖を突きつつ歩きました。

どこに寝たらよいのやら、昼に食堂に入れるか、道に間違いはないか、そんなことばかりにとらわれて、ただ札所まで歩けばいいだけなのに様々な雑念ばかりが心に浮かんでくるのでした。

そうした時には、なかなか札所が見えてこないもので、暫くして何も考えずに、ただ足の先だけを見て歩けるようになると、気がつくと札所の前に来ていることがしばしばありました。その時四国の遍路は、正に歩く瞑想の道場なのだと実感いたしました。

また、道端で佇むお婆さんから百円玉をのせたミカンをいただいたり、おにぎりを買いに入ったお店で、御飯ものがないからと、家の夕飯をパックに詰めて下さったり、食堂でお会いした方に車で次の札所に連れて行かれ、そのまま善根宿をお接待いただいたこともありました。

本当にありがたい出会いを用意して下さるのが、歩き遍路の妙と言えるのではないかと思います。

一度目の歩き遍路では三十九日目の夕刻、大窪寺に結願しました。さあ、高野山までどうやって行ったものかと思案していると、たまたま拝み終わって座ったベンチにいたご婦人から話しかけられ、徳島駅までと言われていたのに小松島港まで車をお接待下さいました。

そして、フェリーに乗り込み和歌山港へ。そこから歩いて和歌山駅前に着いたのは、夜の九時頃だったでしょうか。駅前で知人の車を待っていた若い方に宿泊所をお尋ねしたところ、案内しましょうと言われました。

それで、乗用車に乗り込みましたら、高野山までお連れしますということになり、話に興じている間に到着。結願した日の晩には高野山の師匠の寺に帰ることができるという、誠に絶妙な出会いの連続に不思議な遍路の功徳に感じ入ったものでした。

出家は本来、人様からいただく施食と粗末な衣で遊行しつつ樹下で暮らす者であるとするならば、四国の道は、現代において正にその出家本来の姿を体験させて下さる、得難い道場であるとも言えましょう。

ところで、四国遍路の歴史は、奈良時代の役行者や行基までさかのぼることができるそうです。当時すでに、都から遠く海を隔てた四国の辺路は日本一の難所として知られており、大和葛城山などで修行していた役行者も四国まで足を伸ばしたと言われています。紀伊、淡路を通って、阿波、讃岐、伊予、土佐へと歩を進め、途中石鎚山にも籠もったとか。

また、八十八カ所の札所には行基開基のお寺が多く、行基も四国を旅して修行し、様々な社会事業もなされたのでしょうか。

そして、真言宗の宗祖・弘法大師空海も、おそらく生まれ育った讃岐から足を伸ばし、辺路の道場をくまなく渉猟されたのでしょう。舎心ヶ嶽や御蔵洞で虚空藏求聞持法を修したり、真言を唱えつつ山野を駆けめぐられたといいます。そうして悉地を得られた霊蹟への道を、後の大師を慕う人々が踏み固めていったのが四国の遍路道です。

鎌倉時代、若き日に四国の辺路を修行し、源平の争乱で焼失した東大寺大仏殿を再建した大勧進・念仏聖重源の活躍は、旅をして念仏する多くの仏教者を生み出し、さらに、そこへ一遍上人の時宗聖が加わり、たくさんの念仏聖たちが四国を修行に歩くようになります。

戦国時代には、高野山や根来を追われた念仏聖たちが逃げ込んだ先が信長や秀吉の勢力の及ばない四国でした。彼らは後に全国を廻国して四国遍路の功徳を説いたと伝えられています。

江戸時代には、四国遍路の中興と言われる真念と高野山の寂本によって、「四国遍路道指南」や「四国遍霊場記」が著され、四国遍路の大衆化が図られ今日に至っています。

遍路道を歩いていますと、いにしえのお遍路さんたちが建立した様々な道しるべ、供養塔、地蔵尊を遍路道沿いに見ることができます。同行二人、杖を頼りに、是非歩いて遍路されることをお勧めします。

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コメント (2)
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