住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
幅広く仏教について考える

あるべきようは(公民館でのお話草稿) 

2005年09月05日 11時34分21秒 | 仏教に関する様々なお話
ご案内がありましたように、國分寺から参りました全雄と申します。公民館の館長さんから先月のお盆にお話を頂きまして、何か話をと言うことでしたが、初めは、私などがお話しすることもないのではないかと思いお断りしようかと思いましたが、是も私の僧侶としてのお役目かと考えましてお引き受けした次第であります。

どんな話をするのかと問われましたので、あるべきようは、と題し副題に、お釈迦様が教える本当の幸せとは、とさせていただきました。と申しますのも何と申しましても本当は皆様の方が人生経験もあり何もかにも分かっておいでなはずだと思うからです。

私のような若輩者が皆様に何かお話をするというのであれば、それは誠に限定したものとせざるを得ない、それはただただこの25年にも及ぶ私のお釈迦様に対する思いを皆様にお話しすることしかない、そこからこの1時間、折角お足を運んでくださっただけの何かを持って帰っていただければあり難いと思う次第であります。

ところで、皆さんはお寺の坊さんというのは、お寺の息子がなるものだと思っておいてではないでしょうか。残念ながら私は皆さんと同じような普通の家庭の生まれです。それで良く聞かれることが何かあったのでこの道に入ったのかという事なんです。別に何もないんですが、坊さんになりたくなったからと言うわけですが、皆さん納得しない訳ですね。

きっと言うに言われぬ何かがあってなったに違いないと思われるようです。ですが、本当はお釈迦様だって、お大師様だって、親鸞さんだって普通の家庭に育った人たちなんですね。お寺に家族なんて無かった。だから、私のような者が坊さんになっても良いし、皆さんだってこれから坊さんになろうと思えばなる道は沢山ある。

私の場合は、二十歳過ぎから猛烈に仏教を独学で学んでいて、それで坊さんになりたくなって、暫くサラリーマンもいたしましたが、うまく縁が出来て高野山に行って得度して修行も出来ました。それから、東京の早稲田大学の前にあるお寺で役僧をしていたのですが、一年くらいしまして、お暇が出ましてインドに行きました。その後戻って四国を歩いたり、東京で托鉢などをして暮らしていましたが、また、インドに行く機会があり、今度はインドの坊さんとして3年余り過ごすことが出来ました。

皆さん仏教の発祥の地はどこにあるかご存知ですか。ベナレスというガンジス河のガートの町として有名な古い町から10キロほど北にサールナートというところがありますが、そこが仏教の発祥の地。お釈迦様が初めて教えを説いたところです。そこで私はまる1年間インドの坊さんとして過ごすことが出来ました。

それは今思うととても幸せなことでした。今にもお釈迦様が歩いてくるのではないかと思われるような場所ですから。そこに長く居れただけでもとてもありがたいことだったんだと思います。その時にはそんなことは思わずにただ一日一日が大変な暑さや言葉の壁やら生活環境の違いなどから大変だったのですが。

それで、偶々日本に戻っていたときに、神戸の震災があって、ボランティアとして避難所で過ごして心のケアーという仕事もさせていただいたり、様々な経験を文章に残し、それを友人たちが布教紙として発行してくれたりと、その間にも色々なことをしました。

それからインドの黄色い衣を脱いで、また日本の真言宗の坊さんに戻って、東京の下町の小さなお堂の堂守をしました。そこでやっと私も家庭を持つことが出来まして、またご縁あってこうして神辺の國分寺というとても地元の大切なお寺にやってきて、住職にさせていただいて役職を全うしているということになっています。

本当に全うできているかどうかは、檀家さん方や周りの人たちが見ていることですから、私が判断することではありません。ただ、自分の出来ることをさせていただいているということです。今思うことは住職の仕事というのは、本当に幅が広い、何から何までしなければいけないんですね。お経を上げるというのはほんの一部の仕事でして、お寺の維持管理、勿論掃除から、檀家さん方とのコミュニケーション、お金の計算もしなくてはいけないんです。

その点私の場合は、サラリーマンをしていたときに、何でも経験してきたことが今になって大変役に立っています。経理も、総務も、営業も、会合の司会や事務局のような仕事、研修旅行の番頭さんのような仕事もしてきました。それら全てが今に生きているなと思います。皆さんもそうだと思いますが、人生無駄なことなんか何もない。全てが役に立つ糧になるのだとつくづく思います。つづく
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