私的図書館

本好き人の365日

四月の本棚 2 『100回泣くこと』

2007-04-20 23:19:00 | 本と日常
最初に人の死に直面したのは小学生の頃。
わけもわからず、友達の父親の葬儀に参列した。

高校生、同じ剣道部の女の子が交通事故で亡くなった。
ほんの一時間前まで、彼女は元気だった。
今も、その時の気持を書いた日記はとってある。

高校を卒業した頃、伯母が乳癌のために若くして逝った。
大好きだった。

成人し、母方の祖父が死に、何年かして父方の祖母が死んだ。
祖父は明治生まれ。祖母は大正。
それぞれに、もっと何かしてあげられたんじゃないかと思いかえす時がある。
祖母は、私の手を握って「死にたくない」と泣いた。

白血病で亡くなった同級生の女の子はまだ二十代。
長くてキレイな黒髪が印象的な子だった。
小学生の時埋めたタイムカプセルを三十歳になって掘り返した。
彼女は友達のFちゃんと、「ずっと仲良しでいたい」と書いていた。
三十歳になったFちゃんもその場にいた。
白血病のことを私たち同級生に知らせてくれたのもFちゃんだった。

そんなことがあった。
多分、これからもたくさんそんな場面に出くわすだろう。

「気持の整理」なんて言葉じゃ言い表わせない。

でも、私は今日も生きている。





さて、ちょっと関係のない自分のことを書いてしまいました☆

今回ご紹介したい本とは直接何の関係もありません。

今回ご紹介するのは、大切に読みたい、そんな気持にさせてくれる、とても素敵な言葉たちで綴られた一冊。

中村航さんの*(キラキラ)*『100回泣くこと』*(キラキラ)*です☆

誓いの言葉ってご存知ですか?

 健やかなるときも
 病めるときも

 喜びのときも
 悲しみのときも

 富めるときも
 貧しきときも

 これを愛し
 これを敬い

 これを慰め
 これを助け

 死が二人を別つまで

 共に生きることを
 誓いますか

ご存知ですよね♪
結婚式の時に新郎と新婦がお互いに誓いあう言葉。
あれはたんなる形式だよ、なんて高をくくってる旦那さんいませんか?(笑)

でも、本当に、じっくり、ゆっくり噛みしめてみると、とても心にしみてくる言葉です。

共に生きる…それはとっても貴重な奇跡みたいな偶然☆

「やあ」と、彼女は言った。「嫁に来たよ」

主人公は若い男女。
それぞれに仕事を持ち、一緒に食事をし、たまにデートに出かける。
実家で飼っている犬が調子が悪いと聞くと一緒になって心配し、その犬を乗せてやるために、ホコリをかぶっていたバイクを一緒に磨く。
オイルで黒く汚れながら、牛丼を食べながら。

「…結婚しようか」「うん」

ていねいにていねいに暮らしていく二人。
結婚を決めた記念日も、彼氏が六月、彼女が十一日を覚えることにして、二人で六月十一日をつなぎ合わせる。

読んでいて、これ使えるなぁ~と思わず感心☆

結婚の前に、「練習」をしようということになって、彼女が彼氏のアパートにやって来る。

「やあ」「嫁に来たよ」

朝の食事は彼はコーヒー。彼女は牛乳。
いつしか食卓にはカフェオレが並んでる♪

夕食も交代制。
皿洗いはジャンケン。

ちゃんと反省会もする。(あくまで練習だから)
料理のレパートリーの少ない彼に、「このあいだの牛スジカレーは、とっても美味しいかった」「うん、また作るよ」「すぐに作らないで」「忘れたころに作って」

…(笑)

ごく普通の男女の恋愛小説。
でもとっても二人が新鮮に見えてしまうのは、この小説の文章、言葉の一つ一つがすごくいいから♪

言葉、文字、誰もが知っている単語をただ並べかえただけで、こんなにも素敵な世界を描けるのか! と感嘆してしまいました。

それはもしかしたら、私たちの生活にもいえるのかも…

ただの町並み。
ただの通勤電車。
ただの日常。

でも本当は、それはとっても大切で、すごいことなのかも知れない。

ちょっとした風邪で、横になる彼女。
いつもは三日で治ると言う。
モグラの馬力を計算し、自分の体重を七.六ストーンと表現する彼女。(イギリスの伝統では体重をストーン〈石〉で表す。一ストーンは6.35㎏)

こんな生活が、ずっと続くと思っていた。

彼女が口にする”なまねこ”とか、絶対に開かない箱とか、バイクのキャブレターだとか、コーヒーの入れ方だとか、二人の間に流れる空気が好き☆

ガスステーションの加藤さんとか、試作室の石山さんとか、カッコイイ!

それだから、それだからこそ、主人公の彼の言葉が胸に迫ります。

「病はあまりに理不尽だった。」

 健やかなるときも
 病めるときも

 死が二人を別つまで

 共に生きることを誓いますか?

どうぞ、100回泣いて下さい。
泣いて泣いて、泣いて下さい。

”交際3年。
 求婚済み。
 ここが世界の頂点だと思っていた。”

本当に、言葉のつながり、表現が素敵な小説です。
こういう世界は映画なんかでは表せないかも。
ゆっくりと、コーヒの一滴一滴がフィルターを通して落ちていくように、心にしみ込んでいきます。
静かに集中して読みたい物語です。

あなたは生きることは無意味だと思いますか?

何のために生きるのか、そう考えていませんか?

でも、あなたは生きています。

いま、あなたは生きているんです。

どうか、そのことを忘れないで…

とても大切にしたい一冊です☆









中村 航  著
小学館