私的図書館

本好き人の365日

五月の本棚 『エンダーのゲーム』

2007-05-21 02:11:00 | SF

SFに興味はありませんか?

サイエンス・フィクション。

ロケットとか、宇宙人とか、ドラえもんとか…☆

ま、それぞれ趣味趣向はあるとは思いますが、通りすぎてしまうにはあまりにもったいないジャンルです。

宇宙や銀河、異星人やレーザーガンが登場しても、いい作品はたくさんあるんですよ♪

フライパン工場で働き、田舎に帰るきっかけをどこかで心待ちにしながら、かといって思い切って仕事をやめる決心もつかない女の子が登場する、ロバート・F・ヤングの
『ジョナサンと宇宙クジラ』

大御所ハインラインの世のすべての猫好きな読者に捧げられた一冊、
『夏への扉』

おしゃべりな”宇宙船の女の子”が銀河を飛び回るアン・マキャフリイの
『歌う船』

不幸な宇宙船の船長が三人の小さな魔女に引っ掻き回されて、海賊やら帝国やらに追いかけ回されるJ・シュミッツの
『惑星カレスの魔女』

その他にもラリイ・ニーヴンの『リング・ワールド』
R・ラッカーの『時空の支配者』
アシモフの『銀河帝国の興亡』
などなど。

あと大爆笑のD・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』とか☆

その中でも、とっても好きで、印象深い作品が、今回ご紹介する物語。

オースン・スコット・カードの『エンダーのゲーム』です☆

エンダーことアンドルー・ウィッギンは6歳。

6歳の兵士。

人類は昆虫のような異星人の侵略に二度にわたりさらされ、危機に瀕しています。

二人以上の子供を持つことを制限され(エンダーは第三子)、優秀な子供たちはうなじにモニターと呼ばれる機械を埋め込まれ、将来優秀な兵士になれるかどうかを監視される未来。

エンダーはモニターをはずされた直後、対異星人組織、「国際艦隊(インターナショナル・フリート)」に徴兵され、将来、宇宙艦隊の司令官にふさわしい人材を育成するために設立されたバトル・スクールに入ることになります。

いきなりハードな出だし。

宇宙空間を模した無重力戦闘室での子供たちによるチームバトルが、心理戦、戦術、友情などがからまり、かなりの読みどころ♪

しかし、この物語の語るところは、実は宇宙でも戦闘場面でもありません。

自分とちょっと違うからといって、その人を憎む時、人は、本当は脅えているんです。

自分の存在を脅かす存在。

それは自分とまったく違うか、自分と似たところのある人間。

そんな人と出会ってしまった場合、理性的で合理的なゲームだったら、攻撃するか、無視するか。
自分の言うことを聞かせて安心するか、自分の行動で相手が反応するところを見て、やっぱり安心を求めるか、そんなところではないでしょうか。

誰もが自分の安全、損得、勝ち負け、そんな基準で思考するようになっている。

あいまいさを許さない。それは不安を呼び起こすから。

いいじゃないか、世界は広い。

そんな言葉が入り込む余地がないほど、自分の知っている世界だけがこの世界だと考えてしまう。

ある方がこんなような意味のことを言っていました。
「理性の行き着く先に暗闇が見える」

信じますか?
戦争は、実はとっても理性的なことかも知れないだなんて。

バトル・スクールに入ったエンダーは、他の子供たちと<サラマンダー隊>、<ドラゴン隊>などと名前のついたチームごとに別れて、一緒に寝起きし、生活することになります。

チームには14歳を越える子供はいません。
やはり子供の指揮官の下、そのチームを一単位としたゲーム、無重力状態での戦闘訓練をこなしていくのです。

銃を持ち、40人ほどのチームが互いに相手を撃ち合う。
ゴールの四隅に設えられたスイッチを誰かが押している間に、一人でもその中を通過できたら勝利。

そのゲームで天才的な戦略を使い、勝ち続けるエンダー。

年上の少年たちからの嫉妬。
わざとエンダーを孤立させるかのような大人たちの態度。
ゲームはさらに難易度を増し、今や公然と不公平な条件をつきつけられる。

それでも彼は勝ち続けるのでした。

通常、昇進するのに何年もかかるところを、異例の速さで指揮官に任ぜられ、さらに16歳にならないと進めないとされていたコマンド・スクールに、たった11歳でエンダーは進むことになります。

まるで、何か急がなければならない理由があるかのように…

ストーリーもアッと驚く展開で、読み進めるうち夢中になりました。
子供たちからの憎しみにさらされても、生き抜いていくたった11歳のエンダー。
大人たちの思惑。
そして意外な昆虫型異星人の正体。

なにより、読んでいて「理性って怖い…」と思ってしまいました。

割り切らなきゃいけないこと。

例えば、市役所の職員はすべての人を救うことなんて出来ません。
生活保護も無尽蔵の予算があるわけではないでしょう。
どこかで線を引く。
人間が相手なのに…

裁判官は、全ての犯罪者を死刑には出来ません。
どんなに被害者の方の悲しみが大きくても。

常に多数の意見が正しいなんてことがあるわけがないのに、多数決で決めなければならない。

そしてそれを納得させ、割り切る理由を与えているのは、たかだか人間の理性なのかも知れない…

物語自体は、こんな私の理性うんぬんなんて感想を抜きにしても、充分楽しめる作品です☆

現に、栄えあるヒューゴ賞、ネビュラ賞の両賞を受賞しています。

続編では、遠藤周作の『深い河』や、大江健三郎の名前が著者あとがきに出てきたりと、日本との意外なつながりも垣間見えたりするんですよ♪

なぜ大人たちはエンダーにゲームをさせ続けたのか?

異星人との戦争の結末は?

そして、天才戦略家、エンダーの下した決断とは?

私の中ではとても印象深い作品です。

どうです?
たまには、自分の知らない世界から、現実を眺めてみませんか?

SF作品って、突飛なようで、ちゃんと現実を映していたりするんですよね。

たまに裏っがえしに映したりもするんですが、そこがまた興味深いところです☆













オースン・スコット・カード  著
野口 幸夫  訳
ハヤカワ文庫