ある時友人にこう言ったことがあります。
「人生には読んでおかなくっちゃならない本ってあるよね。」
彼はサラッと答えました。
「そうだよ。」
・・・なかなかの名言でした。いまだに忘れられない一言です。
さて、『昔気質の一少女』の紹介です。
前回は十四歳だった主人公ポリーも二十歳になり、家計を助けるためにピアノ教師として働くことにします。
ますます貴婦人として磨きをかけた友人ファニーは相変わらず。
幼かったその妹モードもようやくRの発音が満足にできるようになり、いつもポリーをからかっていたトムは大学で伊達男として名を馳せることに。
今回の見どころは、このファニー嬢の変化と、ポリーとファニーの恋模様♪
そして時代に先駆けた女性の自立をテーマにしたオルコットの見事な文体です。
アメリカで女性参政権が実現するのはこの小説の発表後半世紀がたった1920年なんですから、考えてみるとスゴイ!
「男だって女だってその心情や気概はみんなが考えているほど違うものではない」
ポリーの友人として登場する若き芸術家達。
お金や流行や地位に振り回されず、才能と若さで世間に立ち向かう彼女達。
そして独立を獲得するために一本の針で戦うあわれなジェーン・ブライアントのような多くの女性。
彼女達に、そしてポリーに誘発されて、あのファニーが「真に大切な物」に目覚めていく過程は胸がスーとします。
ファニーの一家を襲うことになる大きな困難でさえ、彼女を、そしてトムを大きく成長させる助けとなります。
もちろん、どんな時でも物事のよい半面を見る才能を持つポリーの存在は欠かせません。
「自尊心は懐の中にしまっておきなさい。そして貧乏は何も恥ずべきことではない、不正こそ恥ずべきことだということを忘れないようにおし」
貧困と労働の中にも喜びを見出し、人生を楽しむ術を知っているポリーのなんと魅力的なこと♪
そんな彼女が悩まされる恋愛模様は、「もうお願い、かんべんして!」と思わず叫びたくなるほどじれったい!
オルコットは読者を惹きつける天才ですね。
読者にはお互いの気持ちがわかっているだけに、ちっとも進展しない二人に「早く気づけよ!」と突っ込みたくなります(笑)
思いやりと取り越し苦労、よけいな告げ口に根拠のないウワサ話。
ファニーじゃないけど次の汽車で西部に行ってポリーの恋敵をひとにらみで倒し、意中の彼氏をばポリーへのおみやげにさらってきたくなります(…ファニーならやりかねない☆)
作者が読者に語りかける(いいわけかな?)シーンもあって、全編に流れる愛情とユーモアは、爽快感を与えてくれます。
物語中でオルコットが危惧していますが(笑)「この昔気質の娘の表紙が図書館でよれよれになっているのを発見するというような名声」は間違いなく与えられたことでしょう。
なんてったって百年以上たった今でもこんなにも熱烈な読者を獲得する魅力を持っているんですから。
現れては消えていく様々な時代の価値観にも揺るぐことのない人間の真実。
ぜひ若い人達に読んで頂きたい。
私の人生の中で、まさに「読んでおかなければならない本」の一冊です。
ルイザ・メイ・オルコット 著
吉田 勝江 訳
角川文庫
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