作者の高楼方子さんと、挿絵を描いている千葉史子さんは共に函館出身。
『時計坂の家』の舞台となる異国情緒あふれた港町「汀館(みぎわたて)」は、きっと函館をモデルにしていると思います。
海の見える高台に、坂の途中にある時計塔。
窓からは船の行き来が見え、教会の屋根がのぞいている風景。
街には市電が走り、修道院に洋風建築の並ぶ町並み。
主人公のフー子は十二歳。
何年も会っていなかったイトコのマリカから手紙をもらい、少女らしい想像力で舞い上がってしまいます。
汀館の祖父の家で夏休みを過ごす・・・
兄しかいないフー子にとって、マリカと過ごす夏休みはとっても魅力的に思えました。
一緒に遊び、一緒にご飯を食べ、一緒に散歩をする・・・
もしかしたら、マリカとは何でも話すことのできる親友になれるかもしれない・・・
キレイで、オシャレで、スタイルが良くて、勉強もできるマリカと過ごす夏。
二人にとって、きっと特別の夏になるに違いない!
ところが、実際の汀館での生活は、そんなフー子の夢に描いた生活とはずいぶん違うものに。
勝手に想像して、勝手に期待して、でも実際はそんな思い通りにはならなくて、失望と悲しさと勝手に期待した自分への恥ずかしさが押し寄せてきて、キューと胸をしめつける。
そんな体験、誰でも経験があると思います。
高楼方子さんは、表面的な子供のための物語じゃなくて、ちゃんと子供の目線で、そんなせつない、小さな胸を痛めるような感情までしっかり入れて、それでいてワクワクするような物語を書いてくれる作家さん。
十四歳の少女が大人達の住む下宿に住み込む『十一月の扉』も、私の好きな高楼方子作品です♪
階段の途中にある、どこにも通じていない扉。
ロシアの民芸品、マトリョーシカにそっくりの少女達。
さび付いた時計に、咲き誇るジャスミンの花。
庭の主に、物干し台から落ちて亡くなったと聞かされていた祖母の身に起こった出来事。
子供時代のせつなさと、知らない世界に足を踏み入れる時の好奇心。
夏休みに読むにはピッタリの一冊!
すべてを子供たちの価値観で塗りつぶしてしまう一部の児童書とは違い、この本ではその対極にあるような、年を経た人間にしかわからない感情、大人の価値観というものもしっかり描かれていて、そこがピリッと辛味になっていて、とってもいいなぁと思いました。
甘いだけの物語とは一味違う!
大人の鑑賞にも十分堪え得る作品です。
あぁ、読めてよかった☆
高楼方子 著
『時計坂の家』(リブリオ出版)
高楼方子さんの作品に「おともださにナリマ小」というタイトルがあるので、『時計坂の家』とともに読んでみたいです。
児童書や絵本のコーナーは普段は子供たちに占領されているので私も近づき辛いです(苦笑)
児童書といっても大人が読んでも楽しめるのもがたくさんあります。