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本好き人の365日

九月の本棚

2003-09-16 23:26:00 | 家庭小説
いい季節になってきましたね。
緑が映え、木々がざわめき、青い空に力強い雲。
秋の実りを待ち望む動物達に、生命力を使い果たさんばかりの虫の声。

近づく読書の秋を先取りして、今回ご紹介するのは、自然描写がとっても魅力的な物語。

ジーン・ポーターの『そばかすの少年』です。

初版はなんと1904年! 日本が日露戦争なんかでてんやわんやしていた明治時代に、小説家という職業婦人が社会的地位を持っていたことも驚きなんですが、その内容の美しさに感動してしまいました。

片腕を失くした痛々しい姿で孤児院の入り口に捨てられていた赤ん坊。名前もわからず、その容姿から「そばかす」とだけ呼ばれていた少年は、もらわれた先で、いわれのない暴力と差別を受け、そこから逃げ出します。仕事を求めて少年がたどり着いたのは、原始の姿を残したリンバロストの森。そこで初めて人間らしい扱いを受けたそばかすは、森の番人として木材会社で働くことに。

この”そばかす”って少年がとってもイイんです♪

森の木を盗み出そうとする荒くれ者達。
跳びかからんばかりに尻尾を鳴らすガラガラ蛇。
片腕だけの体ではあっても、魂は勇気と責任感に燃えるそばかす。

突然あらわれた少女を「エンゼル」(天使)と呼び、心から崇拝するそばかす。
エンゼルの忘れていった帽子を届けるために街に降りたそばかすが、メチャクチャ会いたいくせに、わざわざ彼女の父親の会社に帽子と伝言を預けるシーンには驚きました。この行動、「紳士たる者はこうあるべきだという自分の良識」に従ったそばかすの対応が、実業家のエンゼルの父親に感銘を与える結果になります。

それでも、エンゼルを崇拝し、彼女のためなら命さえ投げ出す、そんなそばかすの思いは、それを口にだすくらいなら、死さえ望むほどに絶望的です。

名前さえない自分のこと、子供の片腕を奪ったであろう両親のことを考えると、そばかすがそう思うのもわかる気がするんだけれど、エンゼルは自分達の運命に敢然と立ち向かいます♪

そう、彼女も戦う少女なんです(笑)

「痛快」という言葉がぴったり☆

時に荒くれ者にピストルを向け。
大の男達に指図をし。
捕まったそばかすを救うため、一人で盗賊の首領と対峙する天使。

リンバロストの森の描写も素晴らしい♪

実は、ジーン・ポーターは蛾や蝶のことではけっこう知られた有名な博物学者なんです。実際にリンバロストの森に蝶を採りにしばしば訪れています。

はたして、そばかすとエンゼルは立ちはだかる困難に打ち勝つことができるのか?

しかし、いったいどうやって?

ぜひとも一度は読んでもらいたい本です。

自然豊かな森と、少年と少女の身も震えるほどの愛の物語。
忘れかけた人間の真の美しさを思い出させてくれる、そんな扉が目の前に開いていたら…

どうです?秋の夜長のつれづれに、あなたも覗いてみませんか。









ジーン・ストラトン・ポーター  著
村岡 花子  訳
角川文庫


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