私的図書館

本好き人の365日

九月の本棚 3

2003-09-15 00:38:00 | 家庭小説
高校時代に読んだ『堤中納言物語』の「虫めづる姫君」は今でも大好きな話の一つです。

マユも剃らず、歯もそめず、毛虫の収集を趣味とする姫君。
こういう人は、何が大切で、何が重要でないか、ちゃんとわきまえていたんだと思いますね☆

さて、『リンバロストの乙女』の二回目です。

我等がエルノラも、蝶や蛾の扱いについては「虫めづる姫君」に劣らず、かなり優秀です。”鳥のおばさん”から、蝶や蛾のコレクションがお金になることを聞いたエルノラは、学費からなにから、すべての資金をまかなうために、それらの収集に懸命に励みます。

蛾の中で「詩人の王」と呼ばれるシセロニア・レガリスが殻からはいだし、しだいに羽を広げていくシーンには、さしものエルノラの母親も、神の力を認めないわけにはいきません。

「わたしの魂を自由に拡げて、あなたの驚くべきみわざをあますところなく悟らせて下さるようお助け下さい。」

実は私、このお母さんの大ファンなんです(笑)

実際的で理性的。そうかと思うと夜中に沼の畔で、夫のために悲痛に嘆く激しい感情をあわせ持つ女性。悲しみと苦労のせいで自分以外の人間には冷淡に振舞うんだけど、その理由のわかっている読者には、そこさえたまらなく魅力的にうつってしまう。

もちろん、その他の登場人物もとっても魅力的です☆

病気の療養で訪れたフィリップ。
彼の婚約者で、社交界の女王様然としたエディス。
二人の友人で、愛するエディスのために奔走するヘンダソン。

物語後半は、ものすごい勢いで、恋物語へとなだれ込んでいきます。

高校生活はエルノラを少女から若々しい女性へと成長させました。
卒業式も終え、大学へ行く資金を稼ぐためにまたしても蝶や蛾を集めなくてはならないエルノラは、ある日、静養のためこの地を訪れていた一人の青年と出会います。
蝶や蛾について語り、学問について議論をかわす二人。そんな彼、フィリップに婚約者がいることは、すぐにわかり、エルノラは彼の婚約者に公平であろうと、フィリップに対し友人として接します。

やがて、リンバロストとエルノラに心を残しながらも、父の仕事や自分達の結婚式の準備のために去って行くフィリップ。

エルノラの母親はかたく抱きしめて娘に訊きます。

「言っておくれ。その涙はひとしずくでもあの人のせいなのかい?」

一方、自分と自分に対するフィリィプの愛を信じていながら、その愛を試すために何度も婚約を破棄すると言い出すエディスも、メチャクチャかわいい♪

フィリップをめぐるこのエディスとエルノラの二人っきりの刃の上を渡るかのような会話は、読んでいるこっちが息も詰まるほど。


 心は破れじ、
 過ぎし日の愛ゆえにうずき、
 痛む心にはあれど、 死には至らじ
 我がいのちこそ その証なれ


はたして恋の行方はいかに?

個人的には、エディスを愛するが故に、彼女の望む《フィリップの愛》をなんとか手に入れさせようとするヘンダソン君が健気で応援したくなっちゃうんだけど…

この物語には、リンバロストの美しい森だけでなく、『そばかすの少年』に出てきた人物や小道具も登場して、読者を楽しませてくれます。

しかし、そんなことよりもなによりも、まず一人でも多くの人に読んで頂きたい。
読んで知ってもらいたい。
私がどんなにこの物語で心揺さぶられたかを。

訳者の村岡花子女史はこう書いています。

「若い人々を読者として若い日の情熱を正しい方向へ導きたいというのが、私の生涯の仕事の基調です。」

何が大切で、何は重要でないかの選択を迫られた時、ちゃんと私の中でこの物語が生きています。
こんな出会いがあるから、人生はやめられないんですよね。

では、あなたにも、そんな素敵な出会いがありますように…










ジーン・ストラトン・ポーター  著
村岡 花子  訳
角川文庫


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