永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(723)

2010年05月03日 | Weblog
2010.5/3  723回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(10)

蔵人の少将の心の内は、

「この源侍従の君のかうほのめき寄るめれば、みな人これにこそ心寄せ給ふらめ、わが身はいとど、屈じいたく思ひ弱りて、あぢきなうぞうらむる」
――この御邸に、薫がこうしてお顔を出されるようなので、それでは姫君も誰もかれも、この人にきっと好意をお寄せになるに違いないと、すっかり弱気になってしょんぼりしてしまうのでした――

 三月になって、桜が盛りの頃、のんびりとした玉鬘の御邸では、特別なご用とて無いので、姫君たちが端近にお出でになっても、間違いなど起こりそうにもありません。(垣間見られる危険がない)

「その頃十八、九の程やおはしけむ、御容貌も心ばへも、とりどりにぞをかしき。姫君はいとあざやかに気高う、今めかしきさまし給ひて、げにただ人にて見奉らば、似げなうぞ見え給ふ」
――(玉鬘の姫君たちは)丁度十八、九歳くらいでしょうか。ご器量もご気質もそれぞれ優れていらっしゃいます。大姫君は、すっきりとして上品で、それでいて今風に華やかさもあり、なるほど、臣下の妻にはもったいなくお見えになります――
 
 ご衣裳は、桜の細長に山吹がさね、ちょうどこの時節に合った色合いで、物ごしなども才気が感じられ、こちらが恥ずかしく思うほどご立派でいらっしゃる。もう一方の姫君は、薄紅梅のご衣裳で、御髪がつやつやとして、すらりとした優雅なご様子です。

「碁うち給ふとて、さしむかひ給へる、かんざし御髪のかかりたるさまども、いと見所あり。侍従の君、見證し給ふとて、近う侍ひ給ふに、兄君たちさしのぞき給ひて、『侍従の覚えこよなうなりにけり。御碁の見證ゆるされにけるをや』とて、おとなおとなしきさまして、つひ居たまへば、御前なる人々、とかう居なほる」
――(姫君たちが)碁を打つとて、向かい合っていらっしゃる、その御髪のかんざしの有様など、本当に見る甲斐があるというものです。弟君の藤侍従が、碁の立ち合いをなさるというので、姫君達の傍におられると、兄君たちが覗くようにして、「侍従はひどくお気に入りになったな、御碁の立ち合いを許されるとは」とおっしゃって、大人っぽい様子で膝まづかれますので、女房たちも居ずまいを正すのでした――

 二人の兄君は、ともに玉鬘のお産みになった方で、ご長男は中将、次男は弁の君です。

◆山吹がさね=表朽葉色裏黄

◆見證し給ふ(けんぞしたまふ)=立会人、審判

ではまた。

源氏物語を読んできて(囲碁)

2010年05月03日 | Weblog
◆写真:碁あそび  風俗博物館
左が大姫君で桜の細長に山吹がさねの衣裳。右が中の君で薄紅梅の衣裳。衣裳も原文どおりに合せています。

 囲碁は奈良時代に唐から輸入されたもので、正倉院御物の中にも見事な碁盤と碁石をみることができる。『養老令』に、僧侶の音楽・遊戯を禁じて琴と碁を例外にしているのは、両者が高尚なものと見られたからであろう。