永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(738)

2010年05月18日 | Weblog
2010.5/18  738回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(25)

 数年たって、御息所は男御子をお産みになりました。

「そこらさぶらひ給ふ御方々にかかる事なくて、年頃になりにけるを、疎かならざりける御宿世など、世人おどろく。帝はまして限りなくめづらし、と、この今宮をば思ひ聞こえ給へり」
――大勢お仕えになっておられる后、女御方に皇子ご誕生がないまま年月が経っておりましたから、これは並大抵ではない御宿縁だなどと、世間の人々も驚いております。院(帝とあるが間違い)はまして、この上もなく珍しく愛らしいと、この新しい御子を大切になさいます――

 こうして大姫君の御腹にお二人が御誕生になりましたので、院はますます御息所をご寵愛になりますため、

「女御も、あまりかうてはものしからむ、と、御心うごきける。事にふれて安からず、くねくねしき事出で来などして、おのづから御中もへだたるべかめり」
――弘徽殿女御も、これではあまりにもひどい事と面白くなく、何かにつけて心穏やかではなく、女房同士の底意地の悪い事件などが起こったりして、自然に、女御と御息所の御仲も疎々しくなるようです――

「世の事として、数ならぬ人の中らひにも、もとより道理えたる方にこそ、あいなきおほよその人も、心を寄するわざなめれば、
――たいていの世の中の常として、何でもない普通の人であっても、元々理屈の通る本妻の方に、一般の人は味方するものらしいので――

 ゆるぎない地位で長年お仕えになって来られた弘徽殿女御の方にばかり、筋道を立てて、大姫君の方を悪く取り扱われますので、御息所(大姫君)のご兄弟たち、特に兄君の中将が、母上の玉鬘に、

「さればよ。あしうやは聞こえおきける」
――ですから申し上げたではありませんか。悪い事は申しませんでしたよ――

と、ますます主張します。玉鬘も、お心が休まらず聞くのも辛いままに、

「かからで、のどやかに目安くて、世を過ぐす人も多かめりかし。限りなき幸なくて、宮仕への筋は、思ひ寄るまじきわざなりけり」
――このような気苦労などせず、のんびりと人の気受けもよく、世の中を過ごしていく者もおおいでしょうに。よほど幸運でない限りは、宮仕えなど思い立つものではありませんでした――

 と、深く溜息をついておられる。

ではまた。