2010.5/7 727回
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(14)
弘徽殿女御からの御文をご覧になった玉鬘は、こうなることが姫君の運命であろう、こうまで仰せられますのも勿体ないことと思うのでした。お支度の調度類は以前から用意をしておりましたので、あとはいそいで女房たちの衣裳とか、あれこれこまごました物を用意なさいます。
「これを聞くに、蔵人の少将は死ぬばかりに思ひて、母北の方をせめ奉れば、聞きわづらひ給ひて、『いとかたはらいたき事につけて、ほのめかし聞こゆるも、世にかたくなしき闇のまどひになむ。思し知る方もあらば、おしはかりて、なほなぐさめさせ給へ』など、いとほしげに聞こえ給ふ」
――このお話を聞いた蔵人の少将は焦がれ死ぬばかりに思いつめ、母君の雲居の雁を責め立てますので、ほとほと困り果てて雲居の雁が玉鬘にお文を差し上げます。「まったく極り悪いことを、それとなくお願い申しあげますのも、愚かな親の迷いからでございます。人の親として思い当たられることがおありで、ご同情くださいますなら、ご推察の上なんとか安心させてくださいませ」などと、いかにも少将を不憫に思っての心情が書かれております。
玉鬘は、「困ったことですこと」とため息をついて、お返事に、
「いかなることと思う給へ定むべきやうもなきを、院より理なく宣はするに、思う給へみだれてなむ。まめやかなる御こころならば、この程を思ししづめて、なぐさめ聞こえむさまをも見給ひてなむ、世のきこえもなだらかならむ」
――どうして良いのか定めようがございませんが、冷泉院からの御懇望ですので、思い迷っております。貴女のほうで本気でご所望ならば、ここしばらくはご辛抱いただきまして、やがてお心のゆくように取り計らい申し上げますのをご覧くださいませ。その方が世間の噂にもならず、万事穏やかでございましょう――
このように書かれましたのは、この大姫君の宮仕えを決めて後、中の君を少将にご縁組おさせしようとのお考えなのでしょうか。
ではまた。
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(14)
弘徽殿女御からの御文をご覧になった玉鬘は、こうなることが姫君の運命であろう、こうまで仰せられますのも勿体ないことと思うのでした。お支度の調度類は以前から用意をしておりましたので、あとはいそいで女房たちの衣裳とか、あれこれこまごました物を用意なさいます。
「これを聞くに、蔵人の少将は死ぬばかりに思ひて、母北の方をせめ奉れば、聞きわづらひ給ひて、『いとかたはらいたき事につけて、ほのめかし聞こゆるも、世にかたくなしき闇のまどひになむ。思し知る方もあらば、おしはかりて、なほなぐさめさせ給へ』など、いとほしげに聞こえ給ふ」
――このお話を聞いた蔵人の少将は焦がれ死ぬばかりに思いつめ、母君の雲居の雁を責め立てますので、ほとほと困り果てて雲居の雁が玉鬘にお文を差し上げます。「まったく極り悪いことを、それとなくお願い申しあげますのも、愚かな親の迷いからでございます。人の親として思い当たられることがおありで、ご同情くださいますなら、ご推察の上なんとか安心させてくださいませ」などと、いかにも少将を不憫に思っての心情が書かれております。
玉鬘は、「困ったことですこと」とため息をついて、お返事に、
「いかなることと思う給へ定むべきやうもなきを、院より理なく宣はするに、思う給へみだれてなむ。まめやかなる御こころならば、この程を思ししづめて、なぐさめ聞こえむさまをも見給ひてなむ、世のきこえもなだらかならむ」
――どうして良いのか定めようがございませんが、冷泉院からの御懇望ですので、思い迷っております。貴女のほうで本気でご所望ならば、ここしばらくはご辛抱いただきまして、やがてお心のゆくように取り計らい申し上げますのをご覧くださいませ。その方が世間の噂にもならず、万事穏やかでございましょう――
このように書かれましたのは、この大姫君の宮仕えを決めて後、中の君を少将にご縁組おさせしようとのお考えなのでしょうか。
ではまた。