永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(735)

2010年05月15日 | Weblog
2010.5/15  735回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(22)

「正身の御心どもは、ことに軽々しくそむき給ふにあらねど、さぶらふ人々の中に、くせぐせしき事も出で来などしつつ、かの中将の君の、さいへど人の兄にて、宣ひし事かなひて、かんの君も、無下にかく言ひ言ひの果いかならむ、人わらへに、はしななうもやもてなされむ」
――御当人たち(弘徽殿女御と御息所)のお心もちとしては、殊更軽々しく仲違いなさるわけではないのですが、女房たちの中に意地の悪い者もいたりして、気まずい行動もでてきているのでした。あの玉鬘のご長男の中将の君はさすがに人の兄だけあって、かつて玉鬘におっしゃったことが、その通りになってきているのでした。玉鬘も、女御方が頑なに我を張られたならば、結局どうなっていくことか。物笑いに具合悪くも取り沙汰されるのだろうか――

「上の御心ばへは浅からねど、年経て侍ひ給ふ御方々、よろしからず思ひ放ち給はば、苦しくもあるべきかな、とおもほすに、内裏にはまことにものしと思しつつ、たびたび御気色ありと、人の告げ聞こゆれば、わづらはしくて、中の姫君を、おほやけ様にてまじらはせ奉らむことを思して、尚侍をゆづり給ふ」
――(あの御方々への)冷泉院の御愛情が浅くはないとしても、長年仕えていらっしゃる秋好中宮や弘徽殿女御を、おもしろからぬ御気分でお見棄てになったならば、それこそ御息所の御身としては、お辛いことでしょうと、玉鬘は御心配が尽きないのでした。また今帝は、大姫君をご自分に差し出さず、冷泉院へ出仕させたことを、心底不愉快の思われて、度々その旨仰せられますことを、人伝てに伺うにつけても玉鬘はいよいよ困り果てて、中の姫君を公式の御役目につけて御所に差し出そうとお思いになり、尚侍の職をお譲りになることにしました――

 朝廷では、尚侍の君(玉鬘)の辞任を、長い年月お許しになりませんでしたが、こちらから昔の例も引き合いにお出しして、やっと辞職がかなったのでした。この辞職が中の姫君の尚侍としての宮仕えにつながりますのも、宿縁なのだったのかしらと、玉鬘はしみじみとお思いになるのでした。

◆くせぐせしき事=癖癖しきこと=ひねくれている。意地が悪い。

◆尚侍(ないしのかみ)=内侍司(ないしつかさ)の長官。常に天皇の側近くにあって、天皇への取り次ぎなどを司どった。妃(きさき)となる場合もあり、その時には、更衣に次ぐ地位として遇された。「しょうじ」「かんの君」とも言う。

◆尚侍の職をお譲りに=玉鬘は、はじめ尚侍(ないしのかみ)として冷泉帝に出仕の筈のところ、髭黒大将がさらうようにして北の方にしてしまいました。結婚後、尚侍としての公職を貰い、在宅にいて職務を続けていたものと思われます。

ではまた。