2010.5/4 724回
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(11)
中将は、二七、八歳で、端正なご様子の方で、
「宮仕へのいそがしうなり侍る程に、人におとりにたるは、いと本意なきわざかな」
――宮中の仕事がいそがしくなりましたので、その間に、あなた方からのご信用が侍従に負けてしまって、まったく残念なことです――
また、弁の君は、
「弁官はまいて、私の宮仕へおこたりぬべきままに、さのみやは思し棄てむ」
――私のような弁官は尚のこと多忙で、私事へのご奉仕は怠らざるを得ませんうちに、
まさか、私をお忘れではないでしょうね――
などと、碁を打っていらっしゃる姫君たちに言葉をかけたりなさって、特に中将は、
「内裏わたりなど罷りありきても、故殿おはしまさましかば、と思う給へらるること多くこそ」
――御所などに参内して、あちこち出歩きますにつけましても、亡き父君がおいでになりましたならと、思うことばかり多くて――
と涙ぐみながら、この姫君方を、何とかして亡き父君が思い定めておいでになったようにしたいものだと思うのでした。このご長男の中将は、今は他家の婿になっておられるので、ゆっくりとこちらへお出でになることも稀でしたが、この日は花に誘われて、寛いでいらっしゃる。
「かんの君、かくおとなしき人の親になり給ふ御歳の程思ふよりは、いと若う清げに、なほ盛りの御容貌と見え給へり。冷泉院の帝は、多くは、この御有様のなほゆかしう、昔恋しう思し出でられければ、何につけてかはと思しめぐらして、姫君の御事を、あながちに聞こえ給ふぞありける」
――玉鬘は、このような大きな御子様方の親とは思えないほど、大そう若々しく、まだ美しい盛りとお見受けします。冷泉院は、今でもこの玉鬘のご容姿をご覧になりたくて、昔を恋しく思い出されては、何を口実にして玉鬘を召し寄せようかとご思案なさって、大姫君の宮仕えを強いてご所望申なされるのでした――
ではまた。
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(11)
中将は、二七、八歳で、端正なご様子の方で、
「宮仕へのいそがしうなり侍る程に、人におとりにたるは、いと本意なきわざかな」
――宮中の仕事がいそがしくなりましたので、その間に、あなた方からのご信用が侍従に負けてしまって、まったく残念なことです――
また、弁の君は、
「弁官はまいて、私の宮仕へおこたりぬべきままに、さのみやは思し棄てむ」
――私のような弁官は尚のこと多忙で、私事へのご奉仕は怠らざるを得ませんうちに、
まさか、私をお忘れではないでしょうね――
などと、碁を打っていらっしゃる姫君たちに言葉をかけたりなさって、特に中将は、
「内裏わたりなど罷りありきても、故殿おはしまさましかば、と思う給へらるること多くこそ」
――御所などに参内して、あちこち出歩きますにつけましても、亡き父君がおいでになりましたならと、思うことばかり多くて――
と涙ぐみながら、この姫君方を、何とかして亡き父君が思い定めておいでになったようにしたいものだと思うのでした。このご長男の中将は、今は他家の婿になっておられるので、ゆっくりとこちらへお出でになることも稀でしたが、この日は花に誘われて、寛いでいらっしゃる。
「かんの君、かくおとなしき人の親になり給ふ御歳の程思ふよりは、いと若う清げに、なほ盛りの御容貌と見え給へり。冷泉院の帝は、多くは、この御有様のなほゆかしう、昔恋しう思し出でられければ、何につけてかはと思しめぐらして、姫君の御事を、あながちに聞こえ給ふぞありける」
――玉鬘は、このような大きな御子様方の親とは思えないほど、大そう若々しく、まだ美しい盛りとお見受けします。冷泉院は、今でもこの玉鬘のご容姿をご覧になりたくて、昔を恋しく思い出されては、何を口実にして玉鬘を召し寄せようかとご思案なさって、大姫君の宮仕えを強いてご所望申なされるのでした――
ではまた。