永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(726)

2010年05月06日 | Weblog
2010.5/6  726回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(13)

 夕暮れの霞がかった時刻ではっきりとはしませんが、蔵人の少将が目を凝らしてご覧になりますと、なるほど桜色の細長のご衣裳を着ていらっしゃるのが大姫君だと分かります。

「げに散りなむ後のかたみにも見まほしく、にほひ多く見え給ふを、いとどことざまになり給ひなむ事わびしく思ひまさらる」
――まさに、古歌にあるようなお形見として目に焼き付けておこうと、このご様子をご覧になりますが、この方が他人のものになってしまわれる事が、ひとしおわびしく思われてくるのでした。

 姫君たちはくつろいで碁に戯れていらっしゃる。侍女たちも愉快そうに気勢をあげてたいそう賑やかなご様子です。蔵人の少将には何が面白いのか分かりませんが、口出しをするのも憚られて、そっとその場を立ち去ります。

「またかかるまぎれもや、と、影に添ひてぞうかがひありきける」
――(それからというもの)また何時か、こんな好機がありはしないかと、つきまとってはねらっていました――

 こうしているうちに、月日が過ぎていき、玉鬘は姫君たちの将来が不安で、考え込んでいらっしゃいます。冷泉院からは、毎日のように御催促のお使いがあります。
 冷泉院の女御(弘徽殿女御で、玉鬘とは腹違いの御妹君、姉妹の関係にある)からも、

「うとうとしう思しへだつるにや。上は、ここに聞こえうとむるなめり、と、いと憎げに思し宣へば、たはぶれにも苦しうなむ。同じくは、この頃の程に思し立ちね」
――他人行儀に私を疎まれるのですか(一応は姉妹なのに)。院は、わたしが邪魔立てをするのだろうと、ひどく憎らしそうにおっしゃいますので、ご冗談でしょうが困っております。同じ事なら早々に宮仕えをご決心なさいませ――

◆散りなむ後のかたみ=古今集「桜色に衣はふかく染めて着む花の散りなむ後の形見に」の歌を引く。 

◆うとむる=疎む=素っ気なくする。よそよそしく対応する。

ではまた。