引越しして炬燵は友人に譲り、4台あった灯油のストーブも減らし薪ストーブに特化した。
大急ぎで暖房のノウハウを覚えねばならない。
ストーブ会社の社員が出向いてくれて薪の燃やし方を学習した。
筈だったが、そのあと一人で毎日4回の慣らし運転を命ぜられ、聞いたはずが
うろ覚えだったのに気づく。
大体、燃やしても温度がストーブ内の200度まで一度も達しない。
薪のせいか、技量のせいか、まあ初心者だからと我慢に我慢を重ね
4日目に薪はなくなるし、寒いし、またストーブ会社に出向いた。
その夜社員が出張してまたノウハウを手ほどきしてくれる。
言うならば車の免許を取るのに教習所での教員が色々教えてくれる内容が
微妙に異なるようなもので、初心者には会得しがたいところがある。
薪の問題が燃えない原因といわれ、急いで買った大型のスーパーの薪は
生渇きという。
会員制で一冬軒先にまきを配達してくれるシステムを利用し、少し覚えた
焚き付け用細薪を作るべく斧を購入した。
福島で生まれ中学生の頃までお風呂は薪で湧かしていたため、薪割りは
子供の仕事だった。
父親から薪割りの仕方を教えられその頃学習が体に身に着いていた筈が
何十年という都会での生活の歳月が見事に忘れさせてくれた。
太薪を何度も割って細くするが、いやどうして薪の素性は千差万別で
1時間もしたら汗が出て体が運動したようになった。
やっと部屋へ戻り、割った薪でうきうきと焚き始めるが思うように
めらめらと燃えない。
ストーブ会社の担当者から子供と同じで手を掛けてはいけない、
ある程度ほったらかしにしたほうが良いといわれた。
その通りにして家事をしているといつの間にかくすぶって消えかかっている。
この繰り返しをして少しずつ、ほんの僅かだが燃やし方を覚えつつある。
お陰でこの1週間、自分の体は煙臭くなってしまった。
煙たい人間になったということだ。
薪割すれば、しばらく手はわなわな振るえ、筋肉痛はすでにやって来た。
いやはや四捨五入すれば100歳の老女の優先すべき新しい仕事は
薪割りだ。
この年で~とは言っていられない、来月になれば孫が生まれてこの家で
過ごす。
暖かい空間を用意せねばならない。
今日はいい具合に燃えついたストーブの傍で炬燵を失い、行き場が無くなった
ロスジェネの犬が好きな椅子を見つけたようだ。