新・本と映像の森 102 手塚英孝「予審秘密通報」(『落葉をまく庭・父の上京』新日本文庫)
1975年。ページ52~113。
1965年作の小説.今は絶版だと思う。
題材は戦前の「治安維持法被告事件」つまり「共産党スパイ査問死亡事件」を描いている。
主人公はスパイの妻となった本名・熊澤光子、小説では北村章子を描いている。戦前の共産党なので、当然「非合法」「地下活動」であり、そのことにいろいろ意見はあると思うが、この場合、それは時代の条件と思って欲しい。別途、このことには触れる。
あの時代の雰囲気をよく伝えている小説だと思う。結婚して夫とともに地下活動に入った主人公は、ある日、夫の仲閒(つまり共産党中央医院たち)に呼び出される。
ほぼ実際の事件を追っているようで、実際に査問されたのは2人で、夫もスパイであるとわかり、主人公は絶望から夫と自殺しようとする。
実際にも、主人公は牢獄のなかで自殺するので、それがタイトル「予審秘密通報」となっている。
わからないのは主人公は名古屋の出身のはずだが、静岡の出身とされていることだ。もしかして、その場にいたもう1人の女性。浜北の木俣鈴子差んと混同されているのかも。これは、どういうことか、わかったらまた書く。
登場人物の実名を書くと、秋笹、逸見、宮本顕治、袴田里見、木島(警備、中央ではない?)、外に女性(今は氏名不詳)など。
主人公の立場の叙述では、スパイ容疑で査問地中に急死した小畑がある夜からきゅうに姿を消してしまう。熊澤光子さんの立場からはそう見えたということだろう。
文庫版の小説名を上げておくと、戦前を描いた「父の上京」「薬」「虱」それに「予審秘密通報」、戦後の天皇崇拝を描いた「停留所にて」「落葉をまく庭」。
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内容的には、以下の文章の続きです。
「過去現在未来のメモリーノート 4 「浜松夫人」のこと ー 宮本顕治『獄中からの手紙 上』
宮本顕治さんの『獄中からの手紙 上』の「1939年9月1日付け 巣鴨の東京拘置所より本郷区駒込林町の百合子宛て」に以下の1節がある。
「浜松夫人健康状態どうだろうと、一応問い合わしておいて貰い度い。そちらの都合で、本人でも妹さんでも。」(p274)
「浜松夫人」には注で「木俣すず子のこと」と書かれている(p317)。
しかし、これだけでは誰のことやらさっぱり判らない。不親切きわまりない注釈だ。
ネットで「日本共産党スパイ査問事件」を見ると、「木俣鈴子 執行猶予判決[2]」というのが出てくる。
つまり、この大泉、小畑のスパイ摘発と小畑の急死事件の蔡に、そこに同席していた女性の1人だ。
だが、残念ながら木俣すず子さんのその後も含めて、浜松の民主運動関係者にも木俣すず子さんのことは、ほとんど知られていない。
そこで、『中日新聞 2017年5月19日(金)』が、「治安法の再来許さない 運動家遺族「共謀罪」に懸念 信頼関係や人間そのものを壊す」という熊澤光子さんの記事を載せた。
その記事が木俣すず子さんの消息を伝える写真を載せているので、紹介する。
写真のタイトルは「赤色リンチに躍る 赤い女党員 名古屋の熊澤辯護士の令嬢や濱松木俣物産の娘」
以下、写真の文章。「昭和九年一月十七日 名古」、たぶん「名古屋新聞」から
「赤色リンチ事件に関連して検挙された山田芳子はは本名木俣すず子(二七)で浜松市板屋町一二一織物問屋木俣光(みつ)次の妹で浜松高女卒業後上京東京女子大学に入り高等部から哲学科に進み昭和三年三月卒業同六年神田岩波書店の編輯部員となり同七年九月ごろから全協アジプル部のメンバーとして活躍中同年十二月中野署に検挙され八年二月に釈放されたもので
同人の妹木俣照子(二四)も七年十二月二十五日シンパとして警視庁に検挙された事があるがまだ深入りしていなかったので・・・・」
また判ったことがあれば続報を載せたい。
資料など、お持ちの方はご一報ください。」