戦争と平和 7 戦争と平和の本 2 竹内浩三『日本が見えない』藤原書店、2001年
竹内 浩三/著、小林 察/編『日本が見えない 竹内浩三全作品集 全1巻』藤原書店、2001年、736ページ、定価8800円
竹内浩三さんは1921年(大正十年)生まれ。三重県宇治山田中卒、日本大学専門部映画科入學。1945年4月9日、フィリピン・バギオ島にて戦死と公報。
10代の頃から、文章・マンガの才能を発揮した、
「日本が見えない」「骨のうたう」は著名となったが、竹内さんの才能と関心はむしろ、映像的創作、とくにマンガに向けられていたように思う。
詳しくは、この『日本が見えない 竹内浩三全作品集 全1巻』を読んで欲しい。
以下、2つの詩を掲げる。
「骨のうたう
戦死やあわれ
兵隊の死ぬるやあわれ
とおい他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や
苔いじらしや あわれや兵隊の死ぬるや
こらえきれないさびしさや
なかず 咆えず ひたすら 銃を持つ
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や 女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨は聞きたかった
絶大な愛情のひびきを 聞きたかった
それはなかった
がらがらどんどん事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた
骨は チンチン音を立てて粉になった
ああ 戦場やあわれ
故国の風は 骨を吹きとばした
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨は なんにもなしになった」
「日本が見えない
この空気
この音
オレは日本に帰ってきた
帰ってきた
オレの日本に帰ってきた
でも
オレには日本が見えない
空気がサクレツしていた
軍靴がテントウしていた
その時
オレの目の前で大地がわれた
まっ黒なオレの眼漿(五Tがんしょう)が空間に
とびちった
オレは光素(エーテル)を失って
テントウした
日本よ
オレの国よ
オレにはお前がみえない
一体オレは本当に日本に帰ってきているのか
なんにもみえない
オレの日本はなくなった
オレの日本がみえない」
注) 本によって異同がありますので、ご注意をおねがいします。