新・本と映像の森 149 高杉一郎『スターリン体験』岩波書店、1990年
岩波同時代ライブラリー、文庫版、288ページ、定価800円
スターリン解明のためにも必読の本。
著者は戦前に改造社の編集者。エスペランティストという人造国際語エスペラントを勉強した人。戦前のプロレタリア文学運動に携わっていたメンバーとは知り合いで有り、宮本百合子さんとも交友があった。
改造社など弾圧・フレームアップの横浜事件後、1944年に満州に徴兵され、そのためシベリアへ抑留され、直接のスターリン体験を経験する。
戦後、無事帰国した後、著者は自分の経験を元に「スターリン体験」を考え始める。
この本の前半の主な内容はソ連の1930年代の政治裁判とメキシコでのトロツキーの言論活動であり、後半では著者の4年間のシベリア抑留体験が詳述される。
これだけでも貴重なものだが、希有なことは著者の戦後の体験である。
高杉一郎さんは、最初の章「1 「スターリン時代」の大きなひろがり」で、こう書いている。「私は俘虜生活からようやく解放されて日本に帰ると、私はシベリアで経験したことや見聞きしたことを『極光のかげに ー シベリア俘虜記』という1冊の本に書いた。……それを読んだあるコミュニストは私にむかって「偉大な政治家であるスターリンをけがして、けしからん。こんどだけは見のがしてやるが」と、まるでオリュムポス山上に宮居する主神ゼウスのように高圧的な態度で言ったし、新日本文学会の系列下にあった「東海作家」という文学団体は私をコーラス・グループの練習場であるバラックに呼びだして集団的なつるしあげを加えた。」
(p8)
高杉一郎さんは,最後にこう書いている。「この本は、私自身の個人的な「メモリアル運動」である。……スターリンの悪口を言ってたのしもうというわけではない。もっと生き続けるために、みずからの浄化(カタルシス)をはかろうとする試みである。」
(p288)