世の中には、ほんものとにせものと、どちらが多いだろうか。
比較症の患者はすぐそんなことを考える。
たとえば薬。
偽薬というのがあって、効き目を試すときに使うそうだが、偽薬のほうを飲んでいて病気が治ってしまうと、区別がつかなくなる。
あれは偽薬でしたと言われても、同じ症状が出たときその薬を飲むと治ってしまう。
そうなると、病を治すのが薬だから、その人にとっては偽薬も真薬ということになる。
ほんものは善、にせものは悪という図式が崩れる。
ほんもの-にせものの区別も意味がなくなる。
どちらが多いかという比較も意味がないことに気づけば、比較症の症状も消える。
病は気から、治すも気から。
病に犯されるのは、治ることに気づかない場合が多いのではないか。
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真贋 |
小林 秀雄 | |
世界文化社 |