前進した、ひたすらに前進した。そしたらいつの間にかスタートへ戻っていた。
よく考えてみると、ああ円錐形の麓を一周しただけじゃないか。
そこで彼は方法を変えその円錐に一歩一歩足場を造って登りはじめた。
ようやく頂点を極めるとそこは腰掛ることも出来ぬ鋭い一点であった。
彼はまた失敗と思ったが諦めて頂上を少し削り、ようやく自分の座って居られるだけの面積を作った。
ホッと一安心して愛用のパイプに煙草をつめ一服したが、ふと見るとそんな円錐が沢山あって、
その各々が最早占領されたり、或いはまさに占領されようとしているではないか。
しかもそのうちのあるものは、彼の円錐よりもウンと高く、従って実に良い見晴しで御丁寧に旗までひるがえって居る。
彼は今度こそ本当に悲観した。
折角小さいながらも安住の地を得たのに、もっと高いところから見ている奴が居る!
だが仕方がないからそのままヂッとしていると、或る高い円錐にいる人がそろそろ降りて来る。
一体どうするつもりだろうと猶も眺めていると地面へ降りた男は土を掘りだした、そしてその土を担いでヨリ太くヨリ高く円錐を工事し始めた。
汗をかいて一生懸命だが一向にはかばかしくない。しかしその姿は全く楽しそうだ。
彼はそれを注視して居たがフト何か感付いたらしく、「そうだ」と独語しながら自分も円錐を降りて行った。
彼もどうやら工事を初めるつもりらしい。
-文:安井仲治-