南無煩悩大菩薩

今日是好日也

ああしんど

2018-01-11 | 古今北東西南の切抜
(/池田蕉園)

よっぽど古いお話なんで御座(ござ)いますよ。私の祖父(じじい)の子供の時分に居りました、「三(さん)」という猫なんで御座います。三毛だったんで御座いますって。
 
何でも、あの、その祖父(じじい)の話に、おばあさんがお嫁に来る時に――祖父(じじい)のお母さんなんで御座いましょうねえ――泉州堺から連れて来た猫なんで御座いますって。

随分永く――家に十八年も居たんで御座いますよ。大きくなっておりましたそうです。もう、耳なんか、厚ぼったく、五分ぐらいになっていたそうで御座いますよ。もう年を老とってしまっておりましたから、まるで御隠居様のようになっていたんで御座いましょうね。
 
冬、炬燵の上にまあるくなって、寐ねていたんで御座いますって。

そして、伸びをしまして、にゅっと高くなって、

「ああしんど」と言ったんだそうで御座いますよ。

きっと、曾祖母(おおばあ)さんは、炬燵へあたって、眼鏡を懸けて、本でも見ていたんで御座いましょうね。

で、びつくり致しまして、この猫はきっと化けると思ったんです。それから、捨てようと思いましたけれども、幾ら捨てても帰って来るんで御座いますって。でもおとなしくて、なんにも悪い事はあるんじゃありませんけれども、私の祖父(じじい)は、「口を利くから、怖くって怖くって、仕方がなかった。」って言っておりましたよ。

祖父(じじい)は私共の知っておりました時分でも、猫は大嫌いなんで御座います。私共がすきで飼っておりましても、「猫は化けるからな」と言ってるんで御座います。

で、祖父(じじい)は、猫をあんまり可愛いがっちゃ、いけないいけないって言っておりましたけれど、その後の猫は化けるまで居た事は御座いません。

-文/池田蕉園-
コメント (2)
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