南無煩悩大菩薩

今日是好日也

予測不可能性

2018-04-03 | 世界の写窓から
(gif/source)

与太郎は毎日隣村へ遊びに行って、まだ日の暮れぬうちに森を通って帰って来ました。

「あの森は狸がいていろいろのものに化けるから、日の暮れぬうちに帰らぬと怖ろしいぞ」

とお母さんが言いきかせているからです。
 
ある日、太郎はうっかり遊び過ごして真暗になって帰って来ました。森の中に入ると、忽ち一丈もある位の一つ目入道が出ました。

「ヤア。大きな伯父さんが出て来た。眼玉が一つしかないんだね。面白いなあ。僕と一緒にうちへ遊びに来ないかい」

と与太郎は言いました。一つ目入道は見ているうちにロクロ首になりました。

「ヤア。綺麗な首の長い姉さんになった。変だなあ。どうしてそんなに長くなるの。もっともっと長くして御覧」

と言いました。ロクロ首は今度は鬼の姿になりました。

「オヤ、鬼になった。お節句の人形によく似てる。可笑しいなあ。もっといろんなものになって御覧」

化け物は与太郎がちっとも怖がらないのでつまらなくなって、狸になってしまいました。

それを見ると与太郎は真青になって、

「ワア狸が出たあ。化けると大変だ。助けてくれ」

と言いながら一所懸命逃げて行きました。

-夢野久作「狸と与太郎」より

「ものごとは予測されることによって、より予測不可能性を高める」 -G.K.チェスタトン
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