(photo/
source)
『熱力学は、蒸気機関と手を携える形で誕生した。熱あるいはエネルギーの、仕事への転換に関わる学問だった。
熱は実際には失われない。熱はアツイ方から冷たい方の物体へと移行するだけだ。その途中で熱は何事かを成し遂げる。
それは水車になぞらえられる。水は水車のてっぺんから底へと流れ落ち、水の量の増減はないが、落下する途中で仕事を行う。
熱はちょうどそういう実態だと仮定した。熱力学的体系の、仕事を生み出す能力は、熱自体ではなく熱さと冷たさの対比に依拠している。
冷水に放り込まれた熱い石は、仕事を発生させる(例えばタービンを駆動する蒸気を発生させる)が、その体系(石+水)の総熱量は一定の量を保ち続ける。最終的には石と水は同じ温度に到達する。閉じたひとつの体系にどれほどエネルギーが内包されていようと、あらゆるものが同じ温度である時には仕事は全くなされない。
ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウスが測定したかったのは、エネルギーのそういう無効性(仕事の役にたたないこと)だった。そして「変容の量」を指すために、ギリシャ語の「トロペー」(変化)をもとに「エントロピー」という用語を考え出した。』
-James Gleick [The Information]より-