先輩からお誘いをいただいて、下北沢は本多劇場へでかけました。
昼しか歩いたことのない下北沢の19時、宵の駅から階段を下りていくのは
ほとんどが20代に見えます。
静かに街へ散っていく若い人たちに、下北沢の掌を見つつ、
呼び込みの立つ本多劇場は「志の輔らくご」へと歩き入りました。
会場の中は、期待の高まる、寄せては返す人々のざわめき。
雰囲気を目で感じているような楽しさが、劇場の良さでしょう。
やがて開演近くのアナウンスに招かれ、少し膝を固くして座る席に収まり、
周りを見れば満員です。
暗転して、志の輔師匠登壇。
ロンドンオリンピックと猛暑の枕は、小さなひそひそ声で立ち上がり、
なんだなんだ、聞こえないぞと耳をそばだたせざるを得ず、集中して聞き入るうちに
師匠の声は普通のトーンに上がっていきます。
こういう場作りは見習わなければ、と身の丈も顧みず思ってしまいます。
話は2時間ノンストップ、驚くべき話力と体力です。
これを10日、毎日昼夜と提供するのですから、芸の道とはやはり浮き世を越えたところにあり、
そこに遊ばせていただく観客は、容易に日常から脱することができるというものです。
お話は、現代の千葉と江戸の伊能忠敬を行き来する時空もの。
落語の世界ではなく講談の住人だという伊能を、脇役たちの思いに話を転じていくことで、
見事に情話へと展開していきます。
うまいなあ、うまいなあ。
構成が。
そしてもちろん、話の間が。
人に聞かせるリズムと言葉の打ち方に、やや現実的な贈り物を得た気分もしながら、
2時間を過ごしたのでした。