情報センター出版局から出ている「旅の指さし会話帳」シリーズの44にミャンマーがあります。
2003年に発行され、私が買ったのは2013年の第11刷。
旅行中に、本の中の単語やフレーズを指さして意思疎通を図るという実用書です。しかし、この本は実用書としてだけでなく、学習書としてもすぐれものです。
著者は浅井美衣さん。大学でミャンマー語を専攻し、就職してミャンマー駐在員、その後独立してミャンマー関係の事業をしているそうです。
先に紹介した『ニューエクスプレス ビルマ語』はたいへん優れた学習書ですが、その構成上、基本語彙の網羅という点で弱点があります。学習はスキット中心で進められ、スキットに出てきた単語を覚えていくことになりますが、このような構成だと語彙を体系的に提出することが難しい。
それでも、「新版」では「単語力アップ」「表現力アップ」というページが設けられ、そこで代表的な助数詞(~人、~個、~匹など)、動詞、形容詞が補充されることで、ある程度マシになりましたが、依然として、1月~12月の名称、曜日は「エクスプレス」には載っていない。
また、巻末の単語集には、テキストに出てきた単語約800語がまとめられていますが、これが見出し語がミャンマー語で配列もミャンマー文字の配列なので、ミャンマー文字の辞書での順番がわからなければ使えません。
『指さし会話帳』は、基本単語が分野別、場面別にまとめられ、会話の構文もあって、単語を入れ換えてさまざまな表現をすることが可能です。
そして、巻末には2500語のミャンマー語が、日本語の訳語の50音順で並べられているので、日緬辞書(ビルマの漢字表記は緬甸)として使えます。
第2部「ミャンマーで楽しく会話するために」には、ミャンマー、ミャンマー人、文化、料理、ミャンマー語についての簡単な解説あり、文字と発音についても学べます。
もう一つの大きな魅力は、本文中のミャンマー文字がすべてていねいに手書きされていること。ミャンマー文字を実際に書くときの、よいお手本になります。普通の学習書は、当たり前ですが印刷用の活字書体なので、どのようにバランスをとって書くべきかがわかりにくいのですね。
「あとがき」が面白い。ミャンマー語を専攻し、ミャンマーで働くことを夢見て、実際にミャンマー社会に飛び込んだときの浅井さんの苦労が偲ばれます。
ミャンマーで仕事を始めたころは本当に大変でした。何が大変って商売的な常識が我々とはまったく違うんです。少なくともミャンマーにいる間は自分を切り替え、今までの日本の常識をすべて捨て去らなければ、精神的ストレスと胃痛でやってられないと思いました。納期までにできるできると言っていて実際できなかったことは数知れず。商品をこのとおり作ってほしいといっても、違ったものが出てくるし、それを指摘するとこっちのほうが売れるかもしれないと開き直る始末。ズボンを縫わせれば前と後ろで模様が違っていて指摘すると、昨日夜中までやっていて電気が暗くて見えなかったなど言い訳するし、商品の服の汚れを指摘すると、サッサッと払って「大丈夫。一回洗ったら消える」と。一体誰が洗うの??? 私が洗うの!? それとも日本のお客さんに洗わせるの!? こちらの注文どおりに作るのに、どれだけの労力と時間が掛かることか…。
…民間人はまだ何とかなりますが、厄介なのはお役所。ある時など、ミャンマーからの輸出に必要な書類にハンコを押すお役所の担当者が国内出張に出てしまい、誰にもハンコを押す権限を与えないので、輸出業務はストップ。こればっかりは指をくわえて担当者が帰っているのを皆待っているしかありません。ふつう、誰かに代理を務めさせるだろうと思うのはこちらの常識。ミャンマーでは通用しません。ミャンマーでは何が起こるか分かりません。だからミャンマーで仕事をすると、たいしたことではイライラしなくなり人間丸くなるかもしれませんね。いや、これは諦めの境地でしょうか…。
私が1996年に韓国に行ったとき、駐在員の先輩たちが話してくれたパルパル(1988年のソウル五輪)以前の韓国の状況を彷彿とさせます。
浅井さんは、本書を出した後も、いくつかミャンマー語の本を出しています。それについてもいずれ取り上げます。
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こんにちは。
最後のあとがきが面白かったです。
20数年前にP国に駐在した当時が思い起こされます。
あとがきにすら書けないようなことも多々あったと想像されます。