私が韓国に赴任したとき,かつての総督府(その後の大統領府)の壮大な大理石の建物は,国立民族博物館として使われていました。ところが,ときの大統領金泳三は,「歴史の建て直し」を唱え,日帝残滓の象徴たるこの建物の取り壊しを決定。博物館の移転先さえ決まらないうちに,取り壊してしまいました。
その後,龍山家族公園内の敷地に新しく国立民族博物館を建設することが決まり,オープンしたのが5年ぐらい前でしょうか。
とくに歴史に関心があるわけじゃなかったので,私は行きませんでしたが,たまたま大学の友人が韓国に来たとき,ぜひ博物館に行きたいというので,いっしょに行きました。彼の専攻は美術史。卒業後,渋谷の美術館の学芸員として研究職にあり,ときどき大学で講義をしたりもしています。美術史の中でも東洋美術を専門にしていますから,ソウルの「国立民族博物館」はそれこそ宝の山でしょう。
「ふーん,これが国宝かあ。ぼくはちっともいいと思わないけどなあ」
膨大な陶磁器の展示物を,一点一点,興味深げに見ています。私は1時間ほどしたときにあくびが出始めた。なにしろ,ひたすら陶磁器です。高麗青磁とか李朝白磁とか,歴史的に貴重なものかもしれませんが,よくわからない。
ベンチで本を読んでいた私のところに,友人が戻ってきたのは3時間後ぐらいでしょうか。
「いや,なかなか面白かったよ。日韓の美意識の違いがよくわかった」
龍山からほど近い峰山チプ(→リンク)で,チャドルパギをつつきながら,彼の高説を聞きました。
「日本人はわびさびの文化だから,豪華絢爛なものより渋いものを好む。形も,完全な左右対象ではなくて,微妙にゆがんだものがいいとされるんだ。ところが,朝鮮は違う。国宝といえば,とにかく大きくて,カラフルで,均整のとれたもの。渋くてゆがんでいて,実にいい味を出してるものは,国宝じゃなくて格下の重文の指定だ。」
「そういえば,韓国人女性と結婚した日本人ジャーナリストの本にこんなのがあったな。結婚前に,ある友人からもらった手作りのコーヒーカップを奥さんが汚いからといって捨てちゃった。韓国人はとにかくピカピカのものが好きらしいね」
そんなことを話すうちに,肉を食べ終わってテンジャンチゲが運ばれてきた。肉入りの特製味噌鍋,ソウル中でもここでしか食べられないお勧めの一品です。
肉を焼くときの網を取り去って,昔なつかしい手鍋を,炭火の上に直に置きます。
「うわっ,すごいな,この鍋」
時間が経っていくぶん火力が弱っているとはいえ,炭の上に直に置かれるものですから,その高熱で鍋がやけ,長年使用するうちに,底面がぼこぼこになっています。
「いい味だしてるよ」
「うまいだろっ?」
「いや,この鍋の歪みがじつにいい」
友人は,チゲの味よりもその年季の入った鍋をいたく気に入っています。焼酎を二本空け,ご機嫌になった友人,勘定をするときに突然こんなことを言い出した。
「あの鍋,持ち帰れないかな。ちょっと交渉してよ」
(しょうがないなあ。)
レジのアガシに言っても埒があかないので店の主人(おじいさん)を呼んでもらった。
この方は,日本の美術の大学教授であること(ウソ)。その方が特別に所望している,お金も出すから,と頼んでみました。ご主人,最初は難色を示していましたが,酔っぱらいにしつこくせがまれて,渋々OKを出してくれました。1万ウォン出すというところを,3千ウォンでいいから持ってけと。
「いやあ,犬鍋さんのおかげで,今日は大満足だよ。こんな鍋も手に入ったし」
タクシーの中で,収穫品をかざしてみたとき…。
アイゴー
なんと,その鍋は新品だったのです。
「ああ,あの歪みがよかったのに…」
ご主人としても,使い古しを渡すのはみっともないと思ったのでしょう。まだ数回しか使ったことのない,新品同様のものを出してくれたのでした。こちらも,交渉が成立したのが嬉しくて,暗がりの中でよく確認しなかった。
ま,これも話のオチとして,いい土産話にはなったことでしょう。
その後,龍山家族公園内の敷地に新しく国立民族博物館を建設することが決まり,オープンしたのが5年ぐらい前でしょうか。
とくに歴史に関心があるわけじゃなかったので,私は行きませんでしたが,たまたま大学の友人が韓国に来たとき,ぜひ博物館に行きたいというので,いっしょに行きました。彼の専攻は美術史。卒業後,渋谷の美術館の学芸員として研究職にあり,ときどき大学で講義をしたりもしています。美術史の中でも東洋美術を専門にしていますから,ソウルの「国立民族博物館」はそれこそ宝の山でしょう。
「ふーん,これが国宝かあ。ぼくはちっともいいと思わないけどなあ」
膨大な陶磁器の展示物を,一点一点,興味深げに見ています。私は1時間ほどしたときにあくびが出始めた。なにしろ,ひたすら陶磁器です。高麗青磁とか李朝白磁とか,歴史的に貴重なものかもしれませんが,よくわからない。
ベンチで本を読んでいた私のところに,友人が戻ってきたのは3時間後ぐらいでしょうか。
「いや,なかなか面白かったよ。日韓の美意識の違いがよくわかった」
龍山からほど近い峰山チプ(→リンク)で,チャドルパギをつつきながら,彼の高説を聞きました。
「日本人はわびさびの文化だから,豪華絢爛なものより渋いものを好む。形も,完全な左右対象ではなくて,微妙にゆがんだものがいいとされるんだ。ところが,朝鮮は違う。国宝といえば,とにかく大きくて,カラフルで,均整のとれたもの。渋くてゆがんでいて,実にいい味を出してるものは,国宝じゃなくて格下の重文の指定だ。」
「そういえば,韓国人女性と結婚した日本人ジャーナリストの本にこんなのがあったな。結婚前に,ある友人からもらった手作りのコーヒーカップを奥さんが汚いからといって捨てちゃった。韓国人はとにかくピカピカのものが好きらしいね」
そんなことを話すうちに,肉を食べ終わってテンジャンチゲが運ばれてきた。肉入りの特製味噌鍋,ソウル中でもここでしか食べられないお勧めの一品です。
肉を焼くときの網を取り去って,昔なつかしい手鍋を,炭火の上に直に置きます。
「うわっ,すごいな,この鍋」
時間が経っていくぶん火力が弱っているとはいえ,炭の上に直に置かれるものですから,その高熱で鍋がやけ,長年使用するうちに,底面がぼこぼこになっています。
「いい味だしてるよ」
「うまいだろっ?」
「いや,この鍋の歪みがじつにいい」
友人は,チゲの味よりもその年季の入った鍋をいたく気に入っています。焼酎を二本空け,ご機嫌になった友人,勘定をするときに突然こんなことを言い出した。
「あの鍋,持ち帰れないかな。ちょっと交渉してよ」
(しょうがないなあ。)
レジのアガシに言っても埒があかないので店の主人(おじいさん)を呼んでもらった。
この方は,日本の美術の大学教授であること(ウソ)。その方が特別に所望している,お金も出すから,と頼んでみました。ご主人,最初は難色を示していましたが,酔っぱらいにしつこくせがまれて,渋々OKを出してくれました。1万ウォン出すというところを,3千ウォンでいいから持ってけと。
「いやあ,犬鍋さんのおかげで,今日は大満足だよ。こんな鍋も手に入ったし」
タクシーの中で,収穫品をかざしてみたとき…。
アイゴー
なんと,その鍋は新品だったのです。
「ああ,あの歪みがよかったのに…」
ご主人としても,使い古しを渡すのはみっともないと思ったのでしょう。まだ数回しか使ったことのない,新品同様のものを出してくれたのでした。こちらも,交渉が成立したのが嬉しくて,暗がりの中でよく確認しなかった。
ま,これも話のオチとして,いい土産話にはなったことでしょう。
完璧な美形の顔だった。
弊社の社長が「あれは整形だよ」と小声で言いました。
でも私は隣に座ってほしいとは思わなかった^^