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ローマ君




ロンドン、曇り。

この秋はジョンストンズのカシミア・ストールを買い足することに決めていた。
9月末のお天気にはふさわしい、大判のストール。

朝出がけに、その繊維のきらめきにうっとりし、肩からぐるりと巻くと思い出した。


30年前の話。

3月のローマは意外に寒かった。
ショート丈のライダース・ジャケットしか持っていなかったわたしは、突然心もとなくなった。

ローマを発って北上する日、レセプションの若い男がこれを持っていけとくれたのがベッドカバーだった。

ベッドカバー!


イタリアのペイズリー柄のベッドカバーは、なるほど、肩にふわりと羽織るとエトロのストールでもあるかのように色が馴染み、なによりも暖かかった。

「ローマ君」とそのストールを名づけ、片時も離さず愛でたのは、その美しい顔をした男を安物のカバーに重ね合わせたからかもしれない。



しばらく大切に羽織っていたが、エジプトに到着する頃にはそれは無用の長物になり、美しい顔もほとんど思い出せなくなっていた。
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