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Brugge Style
ミレトス
綿毛が道路脇の綿畑をどこまでも真っ白にしているその先、丘の上に巨大な劇場が見えてくる。
ミレトスの遺跡だ。
エフェソスには現代の町村があるが、ミレトスには周囲に村もない。
エフェソスの古代遺跡がよく整備されていて観光バスも客も多く、古代人がモザイクの装飾が美しい商店街の店先から飛び出してきそうな活気があるのに比べ、ミレトスの遺跡には柵もなく、観光客もほんの数えるほどだった。
劇場を離れると発掘中のグループに出会った。そのだいぶ先では小型ブルドーザーが石を動かしている。道なき道をたどってそのまた向こうのアゴラを見に行ったら、もう誰もいなくなってしまった。
ミレトスも現在の海岸線からは10キロほどひっこんでしまっているが、古代では港湾大都市だった。
青銅器時代から人が住み着いており、のちにギリシャの植民市になり大発展を遂げる。
エフェソス出身の哲学者ヘラクレイトスの「万物は流転する」を強く感じた。
一方ミレトスでは、持続的観測に基づく自然科学が発達した(ミレトス学派)。
アリストテレスはミレトスのタレス(「万物の根源は水」)を哲学の祖と呼んだ。
アナクシマンドロスは「万物の根源は無限なもの」事物の根源は無限のものである、と。万物はそこから生まれそこへ還る、と言った。
受験勉強的な薄っぺらい知識だが、わたしの薄っぺらい行動範囲においては結構便利で、何かに見当をつけるとっかかりになることもある。
目の前のイオニア式の柱廊のバランスが宇宙の摂理のように美しかった。
この9月、18歳の娘は親元を離れて医学部へ進学した。
このところ、彼女が小さかった頃を思い出しては、懐かしさと、母親である自分に対する忸怩たる思いと、娘に対して感じる誇り、そして時間を巻き戻したい寂しさに笑い泣きしていたのだが、なるほど、万物はどこかから生まれ、流転し、どこかへ還っていくのだ。
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