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略奪博物館! と、アポロ神殿は糾弾す 



アポロ・エピクリオス神殿(救済と加護のアポロ神殿)。
疫病の終息を祈願し建てられたという。


ロンドンの大英博物館が「どろぼう博物館」、「ぬすっと博物館」、「略奪博物館」などと異名を持つのはみなさまご存知だと思う...

今日はその話などを。


ギリシャはペロポネソス半島。
比較的緑が多いアルカディア地方...わが青春のアルカディア。楽園。

海抜1131メートルの高地に、アポロ・エピクリオス神殿(救済と加護のアポロ神殿)が建つ。上の1枚目の写真。

「聖地」は神々の世界として、肉体的にも精神的にも「到達が困難」な場所に作られることが多いという性格、そしてまた巡礼者が里から神殿を仰いだときの視覚的効果を考慮して、この高さが選ばれた。

世界遺産としてはギリシャでは最初(1986年)に登録された重要な遺跡だ。
ちなみにアテネのパルテノン神殿登録は1987年。
そして両方とも同じ建築家イクティノスによるもの(紀元前5世紀)である。



こちらアテネのパルテノン神殿。
現在、1日につき2万人に観光客を絞っているが、それでも常に大混雑だという。
例によって魔法を使ったので無人状態...


バッサイの神殿は、古代ギリシャの建築に伝統的な3つの様式、ドーリア式、イオニア式、コリント式を組み合わせた異例の神殿だ。
ちなみにパルテノン神殿はなくドーリア式のみで建てられている。

最もシンプルなドーリア式の柱が一番外側で周囲を取り囲む。
渦巻きが特徴のイオニア式はポーチを支える。
装飾的なコリント式の柱は内部を飾る。この神殿に残るコリント式の柱頭は、現存する中で最も古いものの一つだそう。



参考に...
こちらはエピダウロスに残るドーリア様式



こちらはオリンピアで見かけたイオニア様式



そして、コリントスで見たコリント様式


アポロ・エピクリオス神殿(救済と加護のアポロ神殿)というくらいだから、神殿の内部、ナオス(本殿)には、当然アポロの神像が祀られた。
また、イオニア式のフリーズの彫刻には、ギリシャ人と女戦士アマゾネス、ラピテース族とケンタウロス族の戦い(ギリシャ神話の中で理性と野蛮、秩序と混沌の対立の象徴)が描かれて...

描かれて...

え、ぐるりと神殿を回ってみてもどこにも見つからないんですけど...

それはそのはず、「略奪博物館」とか「ぬすっと博物館」などと悪名高いロンドンの大英博物館に展示されているから!!

19世紀初頭に英国の考古学者たちが遺跡を調査(以前から、フランス人やドイツ人が現場を訪れてはいた)、本殿のフリーズから彫刻をはがし、当時英国が宗主になっていたザキントス島に持ち帰った。

ペロポネソス地方のオスマン帝国総督であったヴェリ・パシャは、賄賂を受け取ってその所有権を放棄。
1815年にはこれらのフリーズは大英博物館が競売で購入した。



アポロ・エピクリオス神殿(救済と加護のアポロ神殿)、発掘修復作業は現在進行中。
また酸性雨などから守るため、こんなカバーがかけられている。
離れて全体像が拝めるのはいつになるのだろう...



大英博物館は現在でもその取得方法に違法性はなく(え?)、今後も大英博物館に展示されることで万人に開かれる遺産である、と開き直って、ギリシャの返還要求にも応えていない。
大英博物館が入場無料なのは、この正当化のための言い逃れでもある。
しかし、当時の西洋の盗人まがいの「冒険家」や「考古学者」の植民地主義、資本主義的な倫理観は議論されて然るべきであろう。

一方、大英博物館らは内心こう思っているだろう。
「われわれがそのままでは混沌としている世界に序列を与え、ものに価値をつけたのである。その価値を展示するのが博物館なのである、と」。
なんとなれば、「博物館」という概念は西洋の発明品なのだから、と。


なんとも寂しい、アテネの考古学博物館の展示物を見るたびにそう思うよ...

わたしが息巻いているだけでなく、こちらのバッサイのアポロ・エピクリオス神殿の案内板にも、かなり強い皮肉を込めて英国その他の植民地主義列強への批判が書いてある。
娘は英国の友達らに、その批判口調を送らずにはいられなかったほど...!
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