多摩ニュータウンのマンションは、「マスターアーキテクト制度」 で建設されました。
この制度は、ひとりの高名な建築家を意匠設計のトップに据え、その下に建築家が付いて、各住区ブロックを設計する方式です。 景観から細部に至るまで、徹頭徹尾デザイン性を追求します。 日本では、全く初めての制度でした。
結果は。 多くの欠陥マンションを作ることになりました。
要因は幾つかあるようです。 デザインに凝って時間に追われてしまい、実施設計および工期が極度に短くなったこと。 低コストのせいで入札が不調となり、中小ゼネコンにブロックごとのJVを組ませたこと。 これには、新宿都庁の建設など都心で大きなプロジェクトが重なったことも拍車をかけました。
デザインを重視するあまり、意匠図は遅れ、しかもころころと変わりました。 工期を最重視したため、公団の監理体系まで壊してしまいました。 続々と欠陥マンションが建てられていったのです…
「街が輝いています… 住むことの“ゆたかさ”を追求した先進の設計…」 。 宣伝コピーはイメージに訴えかけ、定員の80倍以上もの応募者が殺到したと聞きます。
そうして入居した住民は、漏水に悩まされ、バブル崩壊後の資産価値の急落に怯えることになったのです。 自分たちのマンションに欠陥があると世間に知られれば資産価値の下落に繋がる、と言われました。 かん口令まで出されたのです。
そもそも、マンションの資産価値とはいったい何なのでしょうか?
資産としての価値を考えるのは、売却や賃貸に供する場合です。 (マンション居住者の永住意識は、国交省の平成15年度調査で 48% 。平成11年度の 40% より大きく増えている)
居住する上では、資産価値などという概念は意味を持ちません。 少なくとも、「瑕疵を隠すこととで資産(価値)を守る」 という概念は絶対に誤っています。
マンションとは、良好なコミュニケーションに基づく 「管理の品質」 に価値があると考えます。 瑕疵を追求すること、適切なメンテナンスを実施することは大切です。 そのための住民コミュニティが形成され、生活の快適性・安全性を話し合いで決める基盤が重要だと考えます。