牡蠣の直売所を出て海辺を見ると、晴れていて太陽が眩しい。今回は新しいカメラを持ってきたのだ。直射日光でも綺麗に撮れる筈のレンズをつけて写してみるが、どうかな。
ちょっと絞りが足りなかったか・・・・
お腹も一杯だし、室津の街を歩いて波止の先まで歩いてみようと思い、街の方へ歩いて行った。
シマカンギクだろうか。
海岸の野菊を探して歩いて見たいと思っていたのだが、今年も機会が無かった。来年は何処か、歩いて見たいものだ。そんなことを考えながら歩いていた。
肩から掛けたバッグの中で携帯が鳴っているのに気が付いた。携帯は換えたばかりで、メールなのか、着信があったのかも分らずバッグから取り出す。着信だ。母からだった。
「お父さん、死んじゃったよ」。
父は今年の2月までは元気に働いていたが、自宅で転んで骨折して入院したのが始まりで10ヶ月程であっという間に死んでしまった。いつかこんな日が来るのだろうとは思っていたけれど、不意を突かれた。あまりにあっけない最後だった。前夜はビールを飲み、翌朝は朝食を食べ、昼過ぎに様子が変だと思った10分後には旅立って行ったらしい。
ついに行く道とはかねて聞きしかどきのう今日とはおもはざりしを
在原業平の歌は自分自身のことを歌ったものだったと思うけれど・・・・、でもそんな気持ちだった。
なるべく早く行くからと母に告げて電話を切った。何をして良いのか分らずに、海の写真を撮った。
波止まで歩いて行くのは止めて引き返し、一度自宅に帰ろうかとも思ったが、そのまま父のいる福山まで走ることにした。
陽は落ちた。