その1【アプローチ編】 その2【山小屋編】はこちら。
【2008.12.28】朝。
翌朝、恐る恐る眼を開けてみると・・・願いはかなわず、外は吹雪?
小屋も相変わらず揺れています。外の木々が大きく揺さぶられ、
外に出ても小屋の入口から一歩出ただけで吹き飛ばされそう!
雪煙で周りが見えない・・・
ご来光なんてとんでもなかった。
なんとなく重苦しい気分で朝食を済ませ、部屋に戻って片づけをしていると、
7:30頃、同室のご夫婦がこの天気の中「独標まで行く」といって出かけました!
私たちはもちろんどこにも寄らず下山です。
あちこちの部屋の人たちもなんとなくどうしようか・・・と動きがない。
10人弱の団体さんも食堂で停滞中・・・多分ザイルを持っているので先へ進む予定だったのでしょう。
8:30、出発の支度をしてみるものの、初めての悪天候に出発の決心がつかない。
ダンナだけ先にルートを偵察に行きました。
すると「トレースはありそうだが、視界が悪くてダメだ!」と、
いつもはGOGO!の人なのに珍しく慎重発言をするのです。
・・・ダンナがそう言うならよっぽどなんだろう・・・
ともう少し様子を見ることにしました。
天気予報では午後のほうが少し回復するらしい、との事。
そうこうしているうちに小屋で放送が。
「ロープウエイが強風の為運休しています。
すぐに動きそうもありませんのでそちら方面へ下山予定の方はお気をつけ下さい。」
・・・でたぁ~~~~~ 悪い予感的中・・・
時間が時間なので小屋にいた何組かは、
「ここにいても仕方ないので下山するから、一緒に行きませんか?」
と声をかけてくれた。
でも上高地方面に下山するとのことなので、歩いたこともないトレースのない道、
誰かと一緒とはいえ迷惑をかけても困る。
確実に下山できる自信がない私は、丁寧にお断りした。
・・・さて、困った。どうしよう。
今夜は高山に宿を取っていて、しかもメニューは飛騨牛しゃぶしゃぶだ・・・
このままココにもう一泊か・・・それとも・・・
小屋の方に聞いてみると、
「こういう時は一日に一便だけ動かす時があるんです、静かな時を見計らって。
ただ、その瞬間にそこに居合わせた人だけが乗れるのです。
宿直の人がいるので、最悪でもロープウエイの建物の中で一夜を明かすことは出来るようですが・・・」
とアドバイスを頂き、決心する。
「(夏用)シュラフも持っていることだし、ロープウエイ駅にたどり着けさえすれば生きていられる!行こう!(←珍しく私発言)」
牛肉の威力恐るべし・・・
【10:00】風がほんの少し弱くなったところを見計らって下山開始。
一晩でどんだけ降ったの?昨日のトレースが消えていた。
(これはだいぶ静かになってからの画像。荒れている時はカメラはしっかりしまったので、写真はありません。)
幸いなことに先にテント泊の3名の方が下りていたので、途中から太いトレースになった。
自然に合流、ところどころラッセル交代しながら歩きます。
雪も小止みになり、見通しも利く。
昨日見た蛍光オレンジの道標が暗い中でも目立ってくれたので、それを頼りに進みます。
GPSは持っていないのですが、かろうじてauのGPSをセットして出たので、それも役に立ちました。
5人でしばらく進み、多分ロープウエイまであと30分くらいの所で、下から登ってくる人に出会った。
ロープウエイは止まっている筈なのに?とすれ違いざまに挨拶すると、
なんと今朝「独標へいく」と言って出られたご夫婦ではないですか。
どうされましたか?と、奥様と話しをすると、
「あれから丸山目指したんだけど、小屋の上まで行ったらすごい風で引き返し、
(昨日私たちが引き返したあたり)
どこをどう歩いたのか?ラッセルラッセルでもう疲れちゃって・・・
小屋に電話したら皆停滞しているから、と聞いたんで小屋まで戻ろうかと・・」
と目は真っ赤、大分お疲れの様子なのです。
「私たちはそんなこんなでとりあえずロープウエイ駅まで行きます。」
と告げ(あえて誘いません)、別れましたが出発から約3時間も経っている・・・道に迷っていたのでしょうか?
あの吹雪の中では自分の位置も解らなくなるかもしれないし、
ましてや踏みあともなかったら・・・
自分達があの時間に出て行かなくてよかった、と痛感しました。
ずいぶん山慣れたご夫婦のようでしたが、天候によっては冷静な判断が出来なくなるのかも、と感じました。
【11:40】ロープウエイ駅に到着しました!やったー!これで一安心。
宿直の少年が部屋から出てきてストーブをつけてくれました。
5人で「温かいね~」と喜びますがそれでも0度。
そうこうしているうちに、先ほどのご夫婦が現れた!
「やっぱり真似して降りてきちゃった♪」と奥様、心配だったのでほっとしました。
宿直の少年が「皆さん、食料はお持ちですか?なければ売店のものを売りますので言ってください」
とのことでした。
売店のものと言っても、お土産用のお菓子とか漬物とかなんですが・・・
もし今夜ここに泊まる事になったら考えよう、と私たちは缶コーヒーと(自販機だけは営業中)
手持ちのお菓子で風が止むのを待ちます。
ここまで来る間あんなに静かだった風、ここではすごいのです。
停車中のロープウエイの箱に横風が叩きつけ、バタンバタン言ってます。
強風で閉めたドアの隙間からも風が入ってくる。風速15mで止まるとのことですが、
なるほどこれでは無理もない。
(これは行きのまだ賑やかだった山頂駅4階のレストラン)
いつ再開するかは解りません、と言われているので薄暗いロビーで待つのも飽きてしまい、
昨日コーヒーを飲んだ4階のレストランに散策に行きます(笑)
(誰もいないレストラン・・・おばちゃんがいるはずもない厨房・・・)
もし、今夜ここに泊まる事になったら冷蔵庫開けて飛騨牛コロッケ揚げちゃうぞ~、
と半ば真面目に考えてみたりして・・・時間を潰します。
【13:45】何度も下の駅との電話連絡を取っていた彼から、
「再開することが決まりました!でもお客様は試運転をしてからですからここで待っていてください!」との報告があった。
宿直の少年は嬉しそうに自分の荷物を抱え、大急ぎで箱に乗り込んで行きました・・・。
そう、この駅にはもう私たちしかいない・・・
待っていた私たちは、
「あのコ、相当嬉しそうだったな~。降りてから”今日はやっぱり無理です”ってことになったらどうする?」
と話していました。もちろん笑いながらですけど。
数分後「上がってきた!」と言う声に見に行くと、売店の方やら10名ほどが箱から降りていました。
この時期は16:15が最終便、でもこんな時間なのに本格的に再開するようです。
なんだかみんな、取り残された無人島に助け船が来たような感じ(笑)で喜んでいます。
【14:15】約2時間半、不安な中、一緒に待った皆さんも安堵の表情。
ちょうどソロテント泊だったおじさまも下山してきたところで、8人揃って乗り込みます。
みなさんと一緒に待ったのも何かの縁、心強かったです、ありがとうございました。
視界不良と時折吹く横風で揺れたりするのが不安な気持ちではありますが、
これで帰れる、という喜びのほうが大きい。
しらかば平駅で乗り換え。みんな急ぎ足です。
駅では昨日はなかった大きな雪だるまが「ご苦労さん」と迎えてくれました。
この時間からでもまだ、みんなロープウエイに乗っていくみたい。
昨日不安な気持ちで乗ったこの駅。
あれからすいぶん時間が経ったように懐かしく思える。
私たちも「新穂高バスターミナル」から「高山」行きのバスの時間に間に合った。
やった、なんとか17:00には宿に着きそうだ。
きちんと下山届けを提出してバスに乗った。
時間がなくて日帰り入浴は出来なかったのが心残り・・・。
見上げると西穂方面はまだ厚い雲に覆われ暗い空。
今回初めての雪山だったが、初心者コースとはいえ天候が変われば厳しいものになる、と言う事を学んだ。
小屋泊まりだから・・・と実はガスセットも持っていなかったことも反省。
予備日が必要、という意味も良く解った。
雪の稜線は遊びではいけないところだ、ということもよーく解った。
いっぱいいっぱい学んだ二日間だった。
バスの中の温かさに、さっきまでの張り詰めていた緊張感が溶けていく・・・
・・・無事下山出来て本当に良かった。
何度か怖い思いもした、だけどあの暗い空の上には、とんでもない素晴らしい世界が広がっていて、
歩いていかなければ出会えなかった、楽しさや喜びをたくさん魅せてくれた、
ココロ優しい山だったってことを私たちは知っている・・・。
ありがとう、また来ます!
終。
旅の続きは「旅月」岐阜編でどうぞ。