やはり2011年の大晦日に青葉台で買った本ですが、今度は、桜井良治『消費税は「弱者」にやさしい!』(言視舎)、および土居丈朗編『日本の税をどう見直すか』(シリーズ現代経済研究、日本経済新聞出版社)とは全く反対の立場のものです。
合田寛『格差社会と大増税 税の本質と負担のあり方を考える』(シリーズ「民主的改革のための経済学」⑤、2011年、学習の友社)
実はまだ読み終わっていませんが、かねがね、私が思っていたことが書かれていましたので、ここで紹介しておきます。
妻とも話すのですが、民主党政権になってから、税制大綱を初めとして税制の政策決定過程がよくわからないものとなってしまいました。自民党政権時代であれば、大まかに政府税調→自民党税調→内閣という図を書くことができました。しかし、民主党政権になってから、どこがどのような審議を行って政策を決めていくのか、非常に見えにくくなっています。
〔どうでもいいことかもしれませんが、平成24年度税制改正大綱は財務省のホームページに掲載されており、平成23年度税制改正大綱は首相官邸のホームページに掲載されています。〕
この民主党の政策決定のわかりにくさは、おそらく政治学関係などで指摘されているはずですが、合田寛氏も取り上げており、先に紹介した本で批判しています。
「民主党はかねて自民党政権時代の税の決定プロセスが、政府税調や党税調などがかかわり複雑で、透明性に欠け、責任の所在が明確でないとして批判していました。そのために政権獲得後は旧政府税調を廃止し、政治家だけからなる新政府税調を設置し、税制改革のプロセスを一本化し、責任を明確にするとともに、税の決定過程を透明にすることとしました。」
これは合田氏の著作の49頁に書かれていることです。2009年の政権交代後のことを思い出しました。政府税調の形を一新し、党税調を廃止したはずなのです。ところが、党税調は実質的に復活します。それが「民主党税制改革プロジェクトチーム」です。これ自体はまだよいのですが、その後、党にいくつかの政策調査会ができ、政府には◎◎会議とか△△検討会などが設置されています。合田氏は、50頁で次のように述べています。
「『一体改革』(―社会保障と税の一体改革。引用者注)に関する政府案が決まったときには、党側は社会保障と税の抜本改革調査会と税制改革PTは合同会議を開き、政府案に注文をつけたことに見られるように、党と政府の間に深刻な意見の対立もあり、政策決定の一元化は図られていません。
このように民主党政権は、税の決定は政府税調に一本化して、透明化を図り、責任の所在を明確にするという当初の公約にもかかわらず、政権についたとたんに、政府や党内にいくつもの税制審議機関を設置し、それぞれが税の決定に関わっていることから、国民の目から見れば自民政権時代以上に、不透明であり、責任の所在もまったく不明確と言わねばなりません。」
これで私の頭も多少はすっきりしました。党内、政府内にあれこれの会議などを設けて、それぞれが税制に関係する審議をしているのであれば、意見もまとまりにくいでしょうし、外から見ていてどこが何をやっているのかわかる訳がありません。
さらに、合田氏は、52頁で次のように記し、民主党政権を批判します。長くなりますが、重要と思われますので、引用させていただきます。
「国民の声を聞くという点では自民党政権のほうが熱心でした。旧政府税調はこれまでの税制抜本改革の折々、全国各地で地方公聴会を開催し、国民の声を聞き対話する姿勢を示してきました。中曽根内閣の抜本改革のときには、抜本改革の基本方針に関して全国4ケ所で公聴会が開かれ(1986年)、さらに売上税導入をめぐる混乱の折(1988年)、25回もの地方公聴会が開催されています。小泉内閣の税制抜本改革のときには政府税調の審議と並行して、『税についての対話集会』が2002年から03年にかけて計16回、全国各地で開かれたことは記憶に新しいことです。
ところが民主党政権はこれまで一度たりとも国民の声を聞き、対話しようとする姿勢を見せたことはありません。もし民主党政府が掲げる『公平・透明・納得』というスローガンが本当なら、政府が決定した『社会保障と税の一体改革成案』を国民に示し、国民の声を聞き対話する場を積極的に設けるべきでしょう。」
野党時代の民主党は、国民の声を聞こうとする姿勢が強かったように記憶しています。そうでなければ、2009年8月30日の衆議院議員総選挙で圧倒的な勝利を得られなかったはずです。ところが、政権与党となってから、変質したのか、まだ与党になりきれていないのかわかりませんが、国民の声を聞こうとする姿勢に乏しいという気はします。その意味で、合田氏の指摘は正当と思われます。実際、小泉政権時代に、あれこれの批判は受けながらも行われてきたタウンミーティングのようなものは、民主党政権になってから行われていないのではないでしょうか。寡聞にして知りませんが、インターネットを利用して行われるパブリック・コメントだけでは不十分です。
以下は余談ですが、民主党政権の以上のような状況が、橋下徹氏の大阪都構想などにどこかでつながっているように思えてならないのです。昨年秋の大阪市長選挙では橋下氏が圧勝しましたし、その前の大阪市議会議員選挙などでも過半数を制する勝利を得ました。それは、既存の大政党(民主、自民、公明、社民、共産)のいずれもが、国民の声を聞こうとする姿勢を示していないことに由来します。しかも、大阪市長選挙の後、あれほど橋下氏に敵対していたはずの既存の大政党のいくつかが、橋下氏や大阪維新の会に擦り寄る姿勢を見せています。茶番なのか変節なのかわかりませんが「みっともない」とすら評価できます。あるいは短期的成果しか見えていないのかもしれません。
大阪都構想を受けて地方自治法の改正を検討するとした政府の姿勢は「地方に媚を売っているのか」とも思われますし、もっと言うなら「地方になめられている中央の情けない政治の実情」とすら思えてくるのです。中央よりも地方のほうが発信力が高く、しかも国民や住民の声を(たとえ表面的であろうとも)聞こうとしているのですから。