「第11回 行政行為論その1:行政行為の概念」において述べたように、法律行為的行政行為の場合は、行政庁の効果意思→意思表示に法律が助力を与えるのではなく、先に法律の意思があり、それにのっとって行政庁の意思表示がなされる。換言すれば、行政庁の意思(表示)は法律の意思に拘束される。そのため、民法の法律行為論における瑕疵とは意味が異なる。法律行為の瑕疵が意思表示の瑕疵であることは、民法第94条ないし第96条を読めば理解できる。
そして、意外に見落とされやすいことであるが、民法の法律行為も、瑕疵があるから常に無効であるという扱いはなされていない。例えば、民法第94条によると、通謀虚偽表示は無効である。そのようなものを有効として扱うべき理由が存在しないからである。しかし、通謀虚偽表示をもって善意の第三者(すなわち、事情を知らない第三者)に対抗することはできない。当事者が善意の対三者に対して法律行為の無効を主張することはできない訳である。民法学は無効の法律行為を瑕疵ある法律行為として扱わないが、これは民法自体に法律行為が当初から無効である場合と取り消しうる場合とが規定されているためであろう。
また、第96条によると、詐欺や強迫をきっかけとする法律行為(意思表示)は、当初から無効なのではなく、取り消しうるにすぎない。従って、詐欺に引っかかったことによって何らかの意思表示をした場合、本人が取消の意思を表示すれば、法律行為は成立当初に遡って効力を失うが、本人が追認すれば法律行為は確定的に有効になる。すなわち、取り消しうる法律行為(意思表示)はさしあたり有効なのである。この点には行政行為の瑕疵に類似するところがある。