ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

令和2年度第3次補正予算が成立した/財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律案

2021年01月29日 00時20分30秒 | 国際・政治

 このブログに「驚きの令和2年度第3次補正予算の案」という記事を掲載しました(2021年1月21日付)。ちょうど一週間、28日に参議院本会議において令和2年度第3次補正予算が成立しました。参議院のサイトに28日付で「令和2年度第3次補正予算議決」という記事(https://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/r3/210128.html)が掲載されており、また、時事通信社が28日の22時9分付で「3次補正予算が成立 感染・経済対策に21兆円」として報じています(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012801113&g=cov)。

 この予算については、衆議院予算委員会で立憲民主党などから組み替えを求める修正動議がなされましたが否決されています。

 現在発出されている第2回緊急事態宣言の延長も言われる中で(蓋然性は高いということになるでしょう)、2月7日か8日にGo to キャンペーンが再開されるのでしょうか。再開はステージ2にまで下がったら、と西村経済再生担当大臣も1月26日の記者会見において発言しています〔1月27日7時6分付で東京新聞のサイトに掲載されている「『ステージ2』なら再開 西村経済再生担当相『感染が再拡大しないようにする』」(https://www.tokyo-np.co.jp/article/82285)より〕。一方、第2回緊急事態宣言の解除は現在のステージ4からステージ3に下がることが前提であるとも報じられています(「不気味な話」に記しました)。

 ここですぐに、おかしなことに気づかれる方も多いでしょう。

 第一に、第2回緊急事態宣言が2月7日までに解除されず、延長されるならば、Go to キャンペーンは再開されないということです。緊急事態宣言の対象地域でない道県のみ再開するということも考えられなくはないのですが、対象地域である東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県および福岡県において再開されなければ、経済効果は薄いでしょう。

 第二に、仮に第2回緊急事態宣言が2月7日までに解除されたとしても、全都道府県においてステージ4からステージ2まで下がるのであればともあれ、ステージ3に留まる都道府県についてはGo to キャンペーンは再開できないということになります(または一つでもステージ3に留まる都道府県があれば全国一律停止のままかもしれませんが、このあたりは不明です)。こうなると、補正予算で組まれているGo to トラベル関連の1兆311億円、Go to イート関連の515億円、もう一つあげれば観光(インバウンド復活に向けた基盤整備)の650億円のうちの多くの部分は執行されないままに終わるということになりかねません。あくまでも2020(令和2)年度の補正予算であって、基本的に2021年3月末日までに執行されなければなりませんから、未執行の額が多くなるのではないでしょうか。2か月弱で全額を執行することは困難でないかもしれませんが、第2回緊急事態宣言が解除されてGo to キャンペーンが再開され、2月中か3月中にいくつかの都道府県において再び(あるいは初めて)ステージ4に達し、第3回緊急事態宣言が発出されるようになってしまえば、やはり未執行の額は多くなります。

 緊急事態宣言が解除されてもGo to キャンペーンが再開されなければ、何のために補正予算に1兆800億円を超えるGo to キャンペーン関連の予算〔観光(インバウンド復活に向けた基盤整備)の650億円を含めれば1兆1000億円を超えます。この他、関連する予算項目があるかもしれません〕が計上されたのか、訳のわからないことになります。3月には第4次補正予算の案が提出されるのではないかと予想したくなります。

 野党が衆議院予算委員会でどのような修正案を出したのかがよくわからないのですが、「驚きの令和2年度第3次補正予算の案」においてあげておいた項目および数字を改めて見ると「新型コロナウイルス感染症セーフティネット強化交付⾦(⽣活困窮者⽀援・⾃殺対策等):140億円」となっており、これは少ないのではないかと思いました。共同通信社のサイトに28日17時28分付で掲載された「孤独問題の担当大臣に田村氏? 首相、コロナ渦で突然任命」(https://this.kiji.is/727440173035274240?c=39546741839462401)という記事が掲載されており、28日の参議院予算委員会において国民民主党の伊藤議員による質疑に対し、内閣総理大臣は田村厚生労働大臣が「新型コロナウイルス禍で増える自殺など『孤独問題』を担当する閣僚」であると答弁した旨が書かれていました。閣議で決めておかなかったのかと驚きましたが、とくに女性の自殺が増えているという状況を考えるならば、対策などは必要です。予算の額の多寡が問題であるという訳ではありませんが、COVID-19が社会に与えた影響を考えるならば、COVID-19への対策は十二分に行わなければならないでしょう。

 国家予算においてGo toがこれだけ重視されたのは、2020+1の五輪も大きな一因になっていることでしょう。しかし、開催できるのでしょうか。2020年の一時期のプロ野球、大相撲、競馬などと同じく無観客で行うという案もあるそうですが、感染対策として十分であるかどうかは疑わしいですし、国内の競技大会ではないのですから選手団を派遣しない国も多くなるでしょう。どなたかの冗談をお借りするなら史上初の無選手五輪ということになるかもしれません。これは強烈な冗談です。

 パンデミックは何年か続くのが通例です。今回も同様でした。 

 ※※※※※※※※※※

 ここで話題を変えて、第204回国会に内閣提出法律案第4号の「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律案」を取り上げておきます。

 財政法第4条第1項は「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と定めています。この規定から、建設国債の発行は認められるが赤字国債の発行は認められないということになります。しかし、実際には1975年度以来、ほぼ毎年度、赤字国債が発行され続けています。財政法第4条の特例法が制定されているからです。このブログの「財政法講義ノート」〔第6版〕の「第2部:国の財政法制度 第7回:国債の法的問題」において記したように、長らく毎年度、特例法が制定されていたのですが、2012(平成24)年の第181回国会において成立し、同年11月26日に法律第101号として公布された「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」により、現在は複数年度にわたって公債の発行が認められています。

 今回の改正案は、次のようになっています。

 まず、現行法の2016年度から2020年度までとなっているところを2021年度から2025年度までに改めます。要は延長です。

 次に、財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律第2条を改めます。改正案では「この法律において『経済・財政一体改革』とは、我が国経済の再生及び財政の健全化が相互に密接に関連していることを踏まえ、これらのための施策を一体的に実施する取組をいう。」とされています。

 ちなみに、現行の第2条は、柱書が「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる」、第1号が「経済・財政一体改革 我が国経済の再生及び財政の健全化が相互に密接に関連していることを踏まえ、これらのための施策を一体的に実施する取組をいう。」、第2号が「国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化 国民経済計算(統計法(平成19年法律第53号)第6条第1項の規定により作成する国民経済計算をいう。)における中央政府及び地方政府のプライマリーバランスの合計額(東日本大震災(平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)からの復興のための施策に必要な経費及びその財源に充てられる収入その他の財政の健全性を検証するに当たり当該合計額から除くことが適当と認められる経費及び収入に係る金額を除く。)が零を上回ることをいう。」となっています。

 さらに、改正案では第4条の「平成32年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化」を「同項に定める期間が経過するまでの間、財政の健全化」に改めることとされています。このままではわかりにくいので、現行の第4条と改正後の第4条を並べておきます。

 改正前の第4条:「政府は、前条第1項の規定により公債を発行する場合においては、同項に定める期間が経過するまでの間、財政の健全化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。」

 改正後の第4条:「政府は、前条第1項の規定により公債を発行する場合においては、平成32年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。」


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