ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

日本の所得格差

2023年08月26日 00時00分00秒 | 社会・経済

 朝日新聞2023年8月23日付朝刊23面13版S◎に「所得格差が過去最高水準 21年調査 ジニ係数、14年に次ぐ」という記事が掲載されていました。やはり、非常に気になるニュースです。COVID-19のために、日本で、あるいは世界的に所得格差が拡大しているという話を耳にしますが、それが裏付けられる結果となったと言えるのではないでしょうか。

 厚生労働省のサイトには、2011(平成23)年、2014(平成26)年、2017(平成29)年および2021(令和3)年に行われた所得再分配調査の報告書が掲載されています。この調査は、同省によると「社会保障制度における給付と負担、租税制度における負担が、所得の分配にどのような影響を与えているかを明らかにし、今後の施策立案の基礎資料を得ることを目的として、昭和37年度以降、概ね3年ごとに実施してい」るものです。本来であれば、2017年の次は2020年に調査が行われるべきところですが、COVID-19のために2021年に行われたとのことです。

 2021年に行われた調査の結果は2023年8月22日に公表されました。厚生労働省は「『令和3年所得再分配調査』の結果を公表します〜社会保障や税による再分配後のジニ係数は、横ばいで推移〜」という文書(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/96-1/R03press.pdf)において、次のようにまとめています(役所の文書に見られる悪しき体言止めに修正を加えています)。

 まず、「世帯単位でみたジニ係数」についてです。

 ・「年金等の社会保障や税による再分配後の所得のジニ係数は0.381 となり、平成11 年調査以降0.38前後と横ばいで推移」している。

 ・「再分配前の当初所得のジニ係数は0.570 となり、平成26年調査以降0.57前後と横ばいで推移」している。

 ・「再分配による改善度は33.1%となり、社会保障・税の再分配機能に一定の効果がある結果となっている。」

 次に、「世帯員単位(等価所得)でみたジニ係数」についてです。

 ・「年金等の社会保障や税による再分配後の所得のジニ係数は0.314 となり、集計を開始した平成14年調査以降横ばいで推移」している。「また、再分配による改善度は36.0%となり、世帯単位でみた時と同様に、社会保障・税の再分配機能に一定の効果がある結果となっている」。

 〔ここで、当初所得とは「雇用者所得、事業所得、農耕・畜産所得、財産所得、家内労働所得、雑収入、私的給付(仕送り、企業年金、生命保険金などの合計額)の合計額」をいうものとされており、「公的年金などの社会保障給付は含まない」とされます。次に、再分配所得とは「当初所得から税金、社会保険料を控除し、社会保障給付(公的年金などの現金給付、医療・ 介護・保育の現物給付を含む。)を加えたもの」です。そして、等価所得とは「世帯の所得を世帯人員の平方根で割ったもの」と定義されています。〕

 調査の時期や概要などについては「報告書」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/96-1/R03hou.pdf)1頁に書かれていますので、そちらを御覧いただくとしましょう。基本的には2020年1月1日から同年12月31日までに稼得された所得を土台としていると考えていただければよいのです。

 私が気になるのは、調査の結果そのものよりも、厚生労働省による評価です。横ばい、「社会保障・税の再分配機能に一定の効果がある結果」と記されているのですが、楽観的に過ぎないかと疑いたくならないでしょうか。数値の変化などについては後に概観するとして、再分配による改善度が或る水準に達していなければならないのは当然であり、例えば改善度が10%以下であったり、マイナスになっていたりしたら、再分配の意味がありません。また、ジニ係数が0.1も上昇したら、これまた大問題です(ジニ係数は0から1の間の数値を示します)。

 上記朝日新聞記事には、一橋大学経済研究所の小塩隆士教授によるコメントも掲載されています。小塩教授は「大きな数値の変化はないが、いずれの指標も格差が拡大していることを示したと言える」、「所得や雇用環境がよくない非正規で働く人たちがコロナ禍でより大きな影響を受けたことを反映している可能性がある」、「就職氷河期世代が高齢層の仲間入りをすると、年金をもらえる人ともらえない人の区別がはっきりしてくる。これから格差が小さくなっていくとは期待できず、『貧困の高齢化』について注視が必要だ」という趣旨を語っています。私は、小塩教授の意見が妥当であると考えるのですが、いかがでしょうか。

 上記朝日新聞記事には1987年以降のジニ係数の推移を示すグラフが掲載されており、それを見ると、1987年の当初所得のジニ係数は0.4程度で、1990年、1993年と高まっていく一方であり、2002年か2005年には0.5の大台を超えていき(2005年には0.5263となっています)、2014年に最高の数値を叩き出しました。残念ながら上記朝日新聞記事には具体的な数値が書かれていませんが、「報告書」には0.5704と書かれています。

 「報告書」には2005年以降の推移が書かれていますので、紹介しておきましょう。

 ①2005年

 当初所得0.5265→可処分所得0.3930→再分配所得0.3873

 再分配による改善度は26.4%(社会保障による改善度は24.0%、租税による改善度は3.2%)

 ②2008年

 当初所得0.5318→可処分所得0.3873→再分配所得0.3758

 再分配による改善度は29.3%(社会保障による改善度は26.6%、租税による改善度は3.7%)

 ③2011年 

 当初所得0.5536→可処分所得0.3885→再分配所得0.3791

 再分配による改善度は31.5%(社会保障による改善度は28.3%、租税による改善度は4.5%)

 ④2014年

 当初所得0.5704→可処分所得0.3873→再分配所得0.3759

 再分配による改善度は34.1%(社会保障による改善度は31.0%、租税による改善度は4.5%)

 ⑤2017年

 当初所得0.5594→可処分所得0.3822→再分配所得0.3721

 再分配による改善度は33.5%(社会保障による改善度は30.1%、租税による改善度は4.8%)

 ⑥2021年

 当初所得0.5700→可処分所得0.3890→再分配所得0.3813

 再分配による改善度は33.1%(社会保障による改善度は29.8%、租税による改善度は4.7%)

 たしかに、当初所得を見ると2014年のジニ係数が最も高いのですが、それ以上に気になるのは再分配による改善度の低下です。2014年までは改善度が上昇しているのに対し、2017年、2021年と低下しています。2008年までは30%を下回っていましたから、2021年においても格差を縮小させる効果が存在するとも評価できます。とは言え、当初所得についても格差の拡大傾向が止まった訳でもなく、可処分所得のジニ係数も2017年までは低下していたのに2021年には上昇に転じています。

 COVID-19の影響がどこまで及んでいるのか、それともCOVID-19とは無関係に格差の拡大傾向が存在するのか。

 パンデミックと全く無関係であるということはないでしょう。しかし、全てがパンデミックのためであるとも言えません。

 格差の拡大は、民主主義の地盤を掘り崩します。民主主義の衰退と権威主義の増大というような趣旨のことが叫ばれますが、格差が広がればそのように主張されてもおかしくありません。

 あるいは、世界的に見れば、所詮、民主主義は地域的な現象に過ぎず、権威主義などのほうが普遍的であるということでしょうか。


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