昨日(2023年8月24日)に「令和6年度国土交通省税制改正要望事項」(以下、「要望事項」)が公表されました。
要望として掲げられている事項は非常に多いのですが、「地域交通ネットワークの構築」に関してあげられているのは、「① 地方航空ネットワークの維持・拡大を図るための国内線航空機に係る特例措置の延長(固定資産税)」、「② 鉄道事業再構築事業を実施したローカル鉄道の資産取得に係る税制の特例措置の創設(登録免許税・不動産取得税)」、「③ 鉄道・運輸機構がJR北海道、JR四国、JR貨物から引き取る不要土地に係る特例措置の延長(不動産取得税)」および「④ ノンステップバスやUDタクシー等のバリアフリー車両に係る特例措置の拡充・延長(自動車重量税・自動車税)」です。一昨日(2023年8月23日)の20時44分30秒付で掲載した「国土交通省による2024年度税制改正要望で気になるところ」においては上記のうちの②をあげました。
②については「危機的状況にあるローカル鉄道について、事業構造の見直しを進めつつ鉄道輸送の高度化を図り、鉄道を徹底的に活用して競争力を回復する取組みを支援するため、登録免許税及び不動産取得税の特例措置を創設する」と書かれています。
共同通信社の記事「鉄道駅譲渡時の税減免要望 地域交通再編で国交省」という記事(https://www.47news.jp/9757510.html)ではわかりにくかったのですが、「要望事項」では「ローカル鉄道については、人口減少やマイカーへの転移等が進む中で、利用者の大幅な減少により、大量輸送機関としての特性を十分に発揮できず、存続は危機的状況」にあること、「 地域の足を守るためには、事業構造の変化が必要であるとともに、人口減少社会に相応しい、コンパクトでしなやかな地域公共交通の再構築が急務」であることから「令和5年度に地域交通法を改正し、事業構造の見直しを進めつつ鉄道輸送の高度化を図る再構築事業に関する取組への支援を強化したところであるが、事業構造の見直しを促進するためには、鉄道資産譲渡時の負担軽減が必要」である、とされているのです。
通常、鉄道会社は、線路、駅舎などの鉄道施設を保有するとともに、車両の運行も行います。しかし、1980年代にJR法や鉄道営業法が制定されることにより、(いずれも大まかな表現となりますが)鉄道施設の保有と車両の運行を共に行う第一種鉄道事業者、車両の運行のみを行う第二種鉄道事業者、鉄道施設の保有のみを行う第三種鉄道事業者とに大別されました。これはJR貨物のためと言ってよいでしょう。JR貨物は基本的に第二種鉄道事業者であり、JR東日本などの第一種鉄道事業者による路線において貨物列車を運行しているのです(但し、JR貨物が第一種鉄道事業者となる路線もあります)。こうすることにより、いわゆる上下分離方式を採用することは可能です。
(実は、上下分離方式の定義については問題があるようですが、ここでは煩雑さを避けるため、詳細な説明は避けます。)
「要望事項」において地域交通法と略されている「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」第2条第9号および同第23条以下には鉄道事業再構築事業が定められており、同一の鉄道路線について車両の運行と鉄道施設の保有とを分離し、それぞれを別会社に担わせることができることとなっています。その実例として、北近畿タンゴ鉄道が第三種鉄道事業者、WILLER TRAINSが第二種鉄道事業者となっている宮津線および宮福線があります。
今後、JR各社や中小私鉄の赤字路線(とくに、営業係数が高く、輸送密度が低い路線)を存続させるためには、上下分離方式をさらに進める必要があるということなのでしょう。そのためには、税制による支援の必要であるということで、国土交通省が要望を出したということなのです。
特例措置は令和6年4月1日から令和8年3月31日までの2年間とされており、次の通りとされています。
1.土地・家屋の所有権の移転登記について、登録免許税の税率を2%から0.8%に軽減する。
2.土地に設定された地上権および賃借権の移転登記について、登録免許税の税率を1%から0.4%に軽減する。
3.鉄道事業者が取得した土地・家屋に係る不動産取得税については非課税とする。
これらの内容が妥当であるか否かについては、議論の余地があるものと考えられます。政策減税なり特別措置なりが多くなるのは、税制として望ましいことではありません。また、不動産取得税は都道府県税(地方税法では道府県税)であるので、地方税源の確保などの要請とは真っ向から矛盾します。他方、税率の軽減または非課税がどこまで効果的であるのかという問題も考えられます。地方財政審議会の意見も読んでみたいものですが、最終的には11月から12月にかけて開かれる自由民主党の税制調査会が何回かの会合で決定されることでしょう。おそらく、いずれも採用され、12月に発表されるはずの令和6年度税制改正大綱に盛り込まれることでしょう。
この他、「JR貨物が取得した新規製造車両に係る特例措置の延長(固定資産税)」として「JR貨物が取得した機関車に係る課税標準の特例措置を2年間延長する」ことも要望としてあげられています。その理由として、JR貨物が保有する機関車のうち「国鉄から承継した老朽機関車は、依然、機関車全体の約2割を占めて」おり、「環境に優しい鉄道貨物へのモーダルシフトを推進することによりCO2排出量の削減を図るためには、大量牽引・高速走行が可能な高性能機関車への更新を推進する必要がある」ことがあげられています。公表されている要望書には、国鉄時代の代表的ディーゼル機関車であるDD51とJR貨物になってから増備されているディーゼル機関車のDF200とが並べられており、新型機関車への更新を進めなければならない旨が示されている訳です。
たしかに、DD51など国鉄時代のディーゼル機関車は車齢が50年を超えていたりしますから、車両の置き換えは必要です。ただ、実際のところ、どこまでモーダルシフトが進んでいるのか、また、進めようとしているのかという点が重要でしょう。何年か前からトラック運転手の不足が言われていますし、最近ではバスの運転士の不足が理由となって路線バスの減便が行われるようになっています。そのような点からすれば、モーダルシフトの推進には意味があります。しかし、鉄道路線であればどこでも貨物列車を走らせることができるという訳でもなく、運転士の不足は鉄道についても該当しうることでもあるため、固定資産税に関する特別措置の延長が妥当であるのか、議論が生じないとも言えないでしょう。
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