今日は朝日新聞社のサイトから、夕方に発信されたニュース2件です。
このところ、民法第900条についての議論が強くなっています。このブログでも何度か取り上げていますが、高等裁判所の判決で「違憲」または「適用違憲」(規定そのものは合憲であるが事案に適用することを違憲とする)という判断が示される例が多くなっているからです。
そのような中、今日、最高裁判所第一小法廷が、民法第900条第4号に関する事件につき、審理の場を大法廷に移す旨を決めたそうです。朝日のサイトでは「婚外子の相続差別規定、大法廷判断へ 合憲判例見直しも」(http://digital.asahi.com/articles/TKY201302270303.html)として掲載されています。
こうなると、1995年7月7日に下された大法廷決定が変更されるという可能性が出てきます。判例を変更するのでなければ、大法廷へ移す必要などないからです。参考までに記せば、裁判所法第10条は「事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない」と定めており、その「小法廷では裁判をすることができない」場合として「当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。) 」(第1号)。「前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき」(第2号)、および「憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき」(第3号)を掲げています。
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もう1件は、今日の朝日新聞夕刊14面4版に「遊興 通報を義務化 兵庫・小野市 生活保護巡り条例案」として掲載されている記事です。東京本社版では短いのですが、大阪本社版では長いのでしょうか。サイトでは「生活保護の人がパチンコ→市民に通報義務 小野市条例案」(http://digital.asahi.com/articles/OSK201302270030.html)として掲載されています。
詳細はデジタル版の記事をお読みください。ただ、これはかなり考えさせられる話です。生活保護、児童扶養手当の給付を受けている者が、そのカネをパチンコや競馬などに注ぎ込むというのは論外です。それは当然です。問題は、通報義務そのものです。
小野市が制定しようとする条例案は「市福祉給付制度適正化条例」で、上掲記事によると「受給者が給付されたお金を『遊技、遊興、賭博などに費消』することを防ぎ、『福祉制度の適正な運用と受給者の自立した生活支援に資すること』を目的に掲げる」とのことです。そして、市民は、浪費によって「生活の維持、安定向上に支障がある状況を常習的に引き起こしている」と認められる者、不正受給の疑いがあると認められる者が存在する場合には、市に情報を提供することを義務づけられるそうです。
市長は、27日、つまり今日の市議会で、この条例(案)が監視を強化することを目的としていない旨を述べています。他方、厚生労働省は、条例(案)が生活保護法などに違反するものではないという趣旨の見解を示しています。
仮に、市民への義務づけに関して罰則が設けられるならば、非常に不都合な結果になりかねませんので、その点は妥当でしょう。しかし、誰が生活保護の給付を受けているか、また、誰が児童扶養手当を受給しているかということは、誰にでもわかるというものでもありません。実際、上記記事においても「だれが受給者であるのか、市からデータを出すことはない」と書かれています。当たり前のことで、小野市が積極的に受給者の情報を市民に提供すれば、それこそ個人情報保護法制の趣旨に反しますし、それ以前に市の情報管理体制を問われます。悪用もなされかねません。
勿論、近所にそのような人がいるということでわかる場合もあります。おそらくはそのような場合を第一に念頭に置いているのでしょう。とは言え、浪費ということであれば、何もパチンコや競馬などによるだけではありません。毎晩飲み歩いているのも浪費ですし、買い物による浪費などもありえます。このように考えると、何のために通報制度を条例に規定するのかわからなくなります。通報された人について調査してみたら生活保護受給者でもなければ児童扶養手当受給者でもなかった、というような事例が発生すれば(そんなことは容易に思いつきます)、小野市はどのような対応を取るのでしょうか。
おそらく、真の狙いは、国が生活保護の支給額を減らす方針であることに関連して、市の社会保障関連支出を抑制しようということなのでしょう。形こそ少し違いますが、北九州市の悲惨な事件で問題となった「水際作戦」と根は一緒です。これについては、今月21日付の朝日新聞朝刊38面14版に掲載されている「生活保護渋る窓口、違法 さいたま地裁 三郷市に賠償命令」という記事が参考になります。
最近は、とかく不正受給のケースが目に付くということなのか(昨年には芸能人に絡む事件がありました)、生活保護などへの風当たりが強いようです。たしかに不正受給などの問題が多く、これについては厳しい対処が必要でしょう。しかし、最近の風潮はいささか度を越しているような気もします。こうなると憲法改正で第25条は真っ先に廃止(削除)の対象とされることになるのでしょうか。