朝日新聞デジタルに、今日、三重版の記事として「近鉄内部・八王子線の存廃問題、住民アンケートへ 三重」(http://digital.asahi.com/area/mie/articles/NGY201302270007.html)が掲載されています。紙面では今日付の朝刊27面13版に「近鉄内部・八王子線 沿線住民の思い探る 『応援団』がアンケート」として掲載されています。
これまで、署名活動は行われていたようですが、沿線住民へのアンケートなどは行われていなかったようで、ナローゲージ応援団という団体(市議会における議員連盟や自治会連合会などによる団体)が3月中に実施する意向を固めたようです。
上記記事によれば、近鉄は内部線・八王子線の収支に関してシミュレーションを行っています。一つの条件として、(養老鉄道や伊賀鉄道と同様に)内部線・八王子線の部分を分社化し、運賃をおよそ2割上げるというのですが、それでも10年間、平均して3億円の赤字(現在の年間赤字額とほぼ同じ)が発生するというのです。その理由として人件費をあげています。詳しくは書かれていませんので、人件費に関する条件などは不明です。
アンケートで問われるのは、次の点です。
(1)運賃の値上げ幅:段階的に、10%から50%までの幅を置き、どこまで認められるか。
(2)四日市市などの自治体が財政支援をなすべきか。
他にもあるとは思いますが、記事に書かれていたのはここまでです。
分社化するならば、運賃の値上げはやむをえないことかもしれません。ただ、内部線・八王子線のいずれも四日市市内に留まる短距離路線ですので、割高感は否めなくなります。
さらに大きな問題は、近鉄四日市駅で接続する近鉄名古屋線および湯の山線を初めとする近鉄線各駅への運賃です。以降の話のために、ここで内部線・八王子線の分社後の姿については四日市鉄道(仮称)と記しておきます。
運賃の問題は、東北新幹線の延長開業に伴うJR東北本線盛岡~青森を、IGRいわて銀河鉄道および青い森鉄道に移管したことによって発生しています。IGRいわて銀河鉄道線の好摩駅で接続する花輪線が代表例です。ここで或る本から、少し長くなりますが引用してみます。
「好摩線の列車は、国鉄時代から大半が東北本線を通って盛岡まで直通していた。東北新幹線が八戸まで延伸した平成14年(2002)からは、盛岡~目時間が第三セクターのIGR岩手銀河鉄道に移管された。これに伴って花輪線の列車も盛岡~好摩間は同鉄道の線路を走ることになる。そのため、運賃は好摩を境にJRとIGRの両方の運賃が合算されることとなり、花輪線沿線から盛岡に行くのには、運賃が割高になってしまった。たとえば、大更から盛岡まで利用する場合、以前は全区間がJRだったので運賃は570円だったところが、盛岡~好摩間がIGRに転換後は830円と大幅に値上げとなった。利用者に大きな負担を強いることになり、鉄道離れの一因となったのは否めない。」
〔以上、小関秀彦監修『乗って残したい…赤字ローカル線は今?』(2011年、インフォレストムック)43頁から。原文のまま。〕
文中に登場する大更駅は、好摩から二つ目の駅です。盛岡~好摩の運賃が630円で、好摩~大更の運賃が200円ですので、割引運賃などは設定されていません(定期券については触れないでおきます)。これでは割高になり、乗客の減少を招くでしょう。
四日市鉄道(仮称)が成立すると、上の花輪線と同じ問題が生じることとなります。そうなると、分社化は逆効果となり、廃止が促進されることになりかねません。現在の内部線・八王子線の利用客の動態がよくわかりませんので、仮の話しかできませんが、分社化による運賃の問題は、利用者にとって切実な問題となります。
単純な例として、例えば内部から近鉄富田まで利用してみます。現在は近鉄線として通しで購入できますので310円です。これに対し、同じ区間でも四日市鉄道→近鉄名古屋とすると、内部→近鉄四日市は220円(値上げしなかった場合)、近鉄名古屋→近鉄富田は200円ですので、合算すれば420円となります。
首都圏では、例えば東急、東京メトロ、都営地下鉄では割引運賃が設定されています。例えば、田園都市線の池尻大橋から半蔵門線の表参道まで乗ると、120円+160円=280円、ではなく、260円です。また、東京メトロの渋谷駅から都営地下鉄の西台駅まで利用すると190円+260円-70円=380円です(神保町乗り換えで計算しましたが、実は経路を問いません)。具体的な条件などはともあれ、近距離については割引運賃の設定が必要でしょう。せめて定期券について乗り継ぎ割引運賃が設定されないと、かなり厳しい話になります。
また、上記の朝日新聞の記事には、南海貴志川線から転換された和歌山鐵道のことが少しばかり触れられています。同鉄道は赤字ローカル線の存続のあり方について一つの手本を示してくれたことでも有名で、参考になることでしょう。但し、無条件に模倣するのは避けなければなりません。何故なら、貴志川線と内部・八王子線には決定的な違いがあるからです。
貴志川線は南海の路線でしたが、他の南海の路線とは接続しておらず、孤立していました。起点の和歌山駅ではJR紀勢本線、阪和線および和歌山線と乗り換えることができますが、南海本線の終点である和歌山市駅へはJR紀勢本線を利用するかバスを使うかしかないのです。孤立していたからこそ、南海からの分離も容易であった、とも考えられるのです。
ところが、内部線・八王子線は、貴志川線とは逆に、近鉄線としか接続していません。この点が、養老鉄道および伊賀鉄道(さらに三岐鉄道北勢線)とも異なるのです。参考までに記しておきますと、養老鉄道の場合は起点の桑名で近鉄名古屋線、JR関西本線、および三岐鉄道北勢線(駅は西桑名です)と接続しますし、大垣ではJR東海道本線と連絡します。また、伊賀鉄道は伊賀上野でJR関西本線と、伊賀神戸で近鉄大阪線と接続しています。
内部線・八王子線の利用者が、全てその枠内だけで動き、近鉄名古屋線や湯の山線に乗り換えない、というのであれば話は楽です。連絡割引運賃のことなど考える必要もないでしょう。しかし、おそらくはそうでないはずです。
短距離路線であるだけに、運賃の設定の仕方を誤れば、乗客がいっそう減るでしょう。難しい問題ですが、せいぜい10パーセント程度に留めるのが望ましいと思います。短期的に採算が合わないかもしれませんが、50パーセントも値上げして、近鉄四日市⇔内部が220円→330円となったら、それでも乗るという利用者がどれほど残るでしょうか。
四日市市などの自治体の補助については、以上とは別の問題でもあり、四日市市や三重県の財政状況に左右されることでもあるので、ここでは考察しません。ただ、何年後かに黒字化することを条件とすること、自助努力をやたらと強調することが、公共交通機関の維持にとって望ましいかどうかを考え直す必要は生じている、とだけ記しておきましょう。
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