ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

震災復興に消費税増税は適切なのか?

2011年10月25日 01時02分03秒 | 国際・政治

  〔はじめに:以下は2011年4月17日11時23分07秒付で掲示板「ひろば」に投稿したものです。とりあえず、無修正で掲載します。〕

 昨日の朝日新聞朝刊1面トップに「復興財源、消費増税が軸 首相意向 数年に限定」という記事が掲載されていました。

 震災復興税という新税を設けるという案も既に出されていますが、この新税と消費増税との関係はよくわかりません。震災復興税は、復興構想会議議長を務める五百旗部(いおきべ)氏が提起したものですが、具体的にどういう税が構想されているのか、よくわからないのです。

 それにしても、復興財源として消費税を増税することは適切なのでしょうか。私には疑問しか思い浮かびません。民主党でも慎重論があるとのことですし、どう考えても不適切な提案であるとしか思えません。復興財源が必要なのであれば、所得税や法人税で対処すべきでしょう。

 消費税が不適切であると思われる理由を、ここであげておきます。なお、以下はさしあたりあげておくものです。

 (1)所得税や法人税であれば、地域を区切って税率を変更することが可能です。これに対し、消費税の場合、仕入れ税額控除などの仕組みがあるため、たとえば東北地方の税率をゼロとする一方で近畿地方など西日本の税率を8パーセント(地方消費税を含む)とすることは難しいのです。仮にこれをやるとすると、納税義務者である事業者には余計かつ重大な負担をかけることとなります。

 もし、どうしても地域による負担の差を設けたいのであれば、一般消費税としての現在の消費税ではなく、酒税などの個別消費税を活用するのがよいでしょう。現在の消費税のような多段階のもの(製造業者、卸売業者、小売業者というように多くの段階に課税される)では、執行が難しくなります。

 (2)消費税の場合は、やはりその仕組みにより、課税対象(専門用語でいう課税物件)の取引が行われるならば、課税されざるをえません。しかも、取引があったという事実に基づいて課税されるのであって、納税義務者の事情は考慮されません。

 仮に震災の被害がなかったとしても、消費税は取引そのものに着目して課税されるものですから、売上金額にかかる税額から仕入れ金額に含まれる税額を控除して算出されます。この時、事業者が黒字経営であるか赤字経営であるかは問いません。所得税や法人税であれば、赤字の場合には課税されないのですが、消費税の場合は赤字であっても課税されます。消費税の脱税件数が所得税などよりも多いのは、赤字課税が理由となっています。とくに中小事業者には酷なものなのです。そのことがわかっていれば、被災した地区の人々にも等しく消費税の負担を求めるということを考えるのはおかしな話なのです。「手持ちの資金がなければ、借金をしてでも消費税の負担をせよ」とでも言いたいのでしょうか。

 (3)消費税の納税義務者は事業者ですが、最終的に負担させられるのは消費者です。消費者の負担が増えることになるのですが、とくに被災した地域の住民に、それだけの負担を強いることの正当性があるのでしょうか。避難されている方々の生活状況を考えるならば、消費税の増税が望ましくないことは明らかでしょう。

 (4)消費税の税率を1パーセント上げれば、およそ2兆5000億円の増収になるという計算が出されています。但し、これはあくまでも計算です。実際にはこれほどの増収にならないと思われます。税率を上げれば消費が低迷するのは当然のことです。1997年、消費税率が3パーセントから4パーセントに上がり、同時に地方消費税が導入されたことで合わせて5パーセントに上がってから、景気が急速に落ち込み、企業倒産(代表的なのがあの山一證券でした)なども増えたことは、もう忘れられているのでしょうか。「復興のために消費税の増税を」と言いますが、復興に水を差す可能性のほうが高いと思われます。

 あるいは、或る時点での増税を決めておいて、駆け込み需要を期待しているのでしょうか。1997年の3月に駆け込み需要による消費の上昇がありましたが、同じことが起こるというのでしょうか。仮にそうであるとすれば、これは無責任な思考としか思えません。

 以上からして、なぜ、所得税や法人税の一時増税が即座に思いつかれないのか、と思わざるをえません。我々日本国民が、真に東北地方(など)の復興を願い、協力するのであれば、所得税や法人税の一時的増税はやむをえないでしょう。

 勿論、所得税や法人税の増税も、景気、復興に水を差す可能性はあります。しかし、これらのほうが、地方による負担の差異なども設けやすいですし、赤字の個人や事業者に負担をかけずに済みます。納税義務者の意識にも訴えることができます。それらの点で、消費税より優れていると考えられるのです。

 ついでに記しておきますと、朝日新聞の上記記事には次のような一節があります。

 「消費税のほか、所得税や法人税の増税も検討対象だ。ただ、5~40%の6段階ある所得税率を各1%引き上げても税収増は約1兆円。法人税は08年のリーマン・ショック後に税収が半減するなど安定しておらず、10年度の見込みは約7・4兆円程度に留まっている。」

 所得税や法人税の税率についても1パーセント上昇だけを念頭に置いている点が、私にはよくわかりません。それに、所得税の税率階層を現行の6段階に留めるという発想も、理解できなくはないのですが、単に法律の改正には時間がかかるという観点からの説明にすぎないようにも思われます。所得税は累進課税ですから、税率階層の下のほうは現状を維持し、上がるに従って税率が高くなるようにすればよいのではないでしょうか。

 また、源泉分離課税となっている利子所得や配当所得の税率を上げることを検討課題としてあげておく必要もあります。利子所得は一律源泉分離課税、配当所得の大部分は源泉分離課税となっていますから、総合課税課税とするよりも税負担が低くなります。このため、実質的には日本でも導入が検討されている二元的所得税と同じような結果になっているのです(私が二元的所得税の導入を不要と考えているのも、この事実によります。すなわち、日本では実質的に、たとえ部分的であっても二元的所得税は導入済みなのです)。

 今こそ、税による富の再配分を強化する必要があります。そうでなければ、震災からの立ち直りは難しくなるでしょう。日本の税制が「下から上への富の再配分」となっているのであれば、これを改めなければなりません。


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