ひろば 川崎高津公法研究室別室

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第17回 情報公開法制度・個人情報保護法制度

2017年03月23日 00時32分36秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 以下、法律については次のように略記する。

 行政機関の保有する情報の公開に関する法律⇒行政機関情報公開法

 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律⇒独立行政法人情報公開法

 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律⇒行政機関個人情報保護法

 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律⇒独立行政法人個人情報保護法

 

1.情報公開制度総論

(1)情報公開の意義

 情報公開は、行政による情報管理の一態様であり、次の二つの意味を併せ持つ。

 ①行政機関が管理する情報を、私人の請求により開示すること。一般的に情報公開という場合は、こちらの意味を指す。

 ②行政機関が管理する情報を、行政機関の側で積極的に提供すること。これは、情報提供とも言われている。広報もその一種であろう。

 情報公開の出発点は、国民主権・民主主義の理念である(行政機関情報公開法第1条を参照)。この理念において、行政機関が収集し、管理する情報は、本来、国民の共有財産である。民主主義においては公開政治が原則であるから「国民主権から出発すれば、情報公開は当然である」※。

 ※山崎正『住民自治と行政改革』(2000年、勁草書房)56頁注(4)。拙稿「大分県における情報公開(1)―大分地方裁判所平成12年4月3日判決の評釈を中心に―」大分大学教育学部研究紀要第22巻第2号427頁も参照。

 行政機関情報公開法第1条は「行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」ことをあげている。行政運営の公開性、国民に対する政府の説明責任は、国民主権・民主主義の理念から当然に導き出されるものである。そうでなければ、行政機関情報公開法が掲げる「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」という最終目標は、全く無意味なものに帰する。

(2)行政手続との関係、行政手続との違い

 情報公開は、行政手続の整備と並び、適正な行政運営(国家運営)を担保するために欠かせないものである。恣意的な行政運営(国家運営)は、近現代史の教訓が示すように、行政ないし国家の堕落、さらには滅亡、破滅をもたらす。社会が複雑化し、行政に認められる裁量権が拡大する中において、裁量権に対する統制という意味も含めて、情報公開と行政手続の整備は、いずれも必要不可欠なものであると考えてよいであろう。

 但し、情報公開と行政手続は、考え方などに違いがある。行政手続(法)の整備は、第16回において述べたところから明らかであると思われるが、元々、私人の権利や利益を国家権力から保護するという考え方に由来する。これは自由主義的な発想に基づいているのである。

 それに対し、情報公開は、国民主権の原理に由来する。これは、行政への適切な参加、あるいは行政に対する監視という考え方である。

 また、行政手続には事件性の観念が必要であるのに対し、情報公開に事件性の観念は不要である。従って、情報公開の場合、自己の権利や利益などと関係のない情報(文書)であっても請求の対象となる※。言い換えれば、情報公開の場合、開示請求権が広く国民・住民などに認められている。

 ※横浜地判昭和59年7月25日行裁例集35巻12号2292頁、および東京高判昭和59年12月20日行裁例集35巻12号2288頁を参照。

 さらに、歴史的な面での違いもある。行政手続法制の整備は国が先行したが、情報公開法制の整備は地方が先行した。情報公開条例の第1号は、1982年に制定された山形県金山町の条例である。都道府県における情報公開条例の第1号は、やはり1982年に制定された神奈川県の条例である。ちなみに、国の情報公開法は1999年に制定され、2001年に施行された。

 (3)情報公開制度の憲法上の根拠

 情報公開制度も、それが国や地方公共団体の制度である以上、憲法の理念に即したものでなければならない。それでは、情報公開法制度の憲法上の根拠は何処に求められるのであろうか。これについては、いくつかの説が存在する。

 ①憲法第21条説

 国民の「知る権利」に求め、情報公開請求権が「知る権利」を具体化したものとする説である。

 この説の難点は「知る権利」に根拠を求める点にある。そもそも、この権利の根拠については、憲法学説において憲法第21条に求めるのが通説であるが、それ以外の条文に求める説も存在する。また、「知る権利」が表現の自由から導きうることは認められるとしても、直接的に結びつくのは知る自由であって「知る権利」ではない。換言すれば、「知る権利」は「知る自由」に留まらないものであり、意味や内容は広汎にわたる。とくに、情報開示請求権としての「知る権利」については、これを正面から認める最高裁判決が出ていない。そのこともあって、行政機関情報公開法などの法律には規定されていない。また、若干の条例が「知る権利」を明示しているが、実際の意味は条例の運用に左右されるような状態に置かれている。

 ②国民主権説

 特定の条文に求めるのではなく、国民主権原理から行政側のアカウンタビリティ(説明責任)があるものと考える説である。

 

2.行政機関情報公開法の構造

 (1)行政機関情報公開法の目的(第1条)

 昨今の実定法規と同様に、行政機関情報公開法第1条は法律の目的を示すものとなっている。この規定は、次のことを示している。

 ①国民主権の理念を明示する。

 ②政府(対象は行政機関に限定される)が保有する情報に対する国民の開示請求権を認める。

 通説は、この法律によって初めて具体的な情報開示請求権が認められると理解する。

 ③「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」

 ④「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」

 これは、国民参加、そして国民による行政への監視と同義である。なお、「知る権利」が明示されていないことについては根強い批判が存在するが、表面的な事柄ではないかとする見解もある。

 (2)対象となる機関(第2条第1項)

 国の全行政機関である。従って、会計検査院は対象となる機関であり※、外交、防衛、警察関係の行政機関も対象とされるが、国会や裁判所は除外されており、地方公共団体も除外される※※。

 ※但し、不服審査の機関は、行政機関情報公開法第18条および会計検査院法第19条の2により、会計検査院の中に置かれる会計検査院情報公開・個人情報保護審査会である。

 ※※但し、国会や裁判所が作成した文書、地方公共団体が作成した文書であっても、その文書または写しが国の行政機関にあれば、開示の対象となる。

 なお、独立行政法人などは、独立行政法人等情報公開法の対象である(同法別表第一を参照)。

 (3)対象となる文書(第2条第2項)

 行政機関情報公開法第3条は「行政文書」の開示を規定している。ここにいう「行政文書」は、第2条第2項柱書本文において「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政組織の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」と定義されている。従って、「行政文書」には、文書は当然として、写真、フィルム、磁気テープ、パソコンで作成した文書データなども含まれる。

 また、先行した地方公共団体の情報公開条例では「公文書」として決裁や供覧という手続を経た文書のみが公開の対象とされていたが、行政機関情報公開法ではこのような手続を経ていない文書でも開示の対象となる。従って、職員個人の私的なメモは開示の対象にならないが、組織的に使われているメモ(薬害エイズ事件で問題とされたノートなど)は、保管されているだけであっても開示の対象となる。

 (4)開示に関する諸事項

 ①開示請求者

 行政機関情報公開法第3条は、「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第四号及び第五号)の政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる」と定める。この規定における「何人」は文字通りの意味であって、日本国民に限定されていないし、日本国内の居住も要件になっていない。従って、日本に住む外国人、外国に住む日本人、外国に住む外国人のいずれも開示請求権を有する。

 ②開示請求の性質

 また、行政機関情報公開法第3条により、開示請求権は個人の権利であり、裁判上の救済を受けることが明らかにされている。従って、開示請求に対して不開示決定がなされた場合、対象となる文書の内容を問わず、裁判や不服審査で争いうる。

 ここで、開示請求は、行政手続法第2条第3号にいう「申請」に該当する。そのため、行政機関の長による開示決定・一部開示決定・不開示決定は、行政行為であり、行政手続法第2章にいう「申請に対する処分」に該当し、行政手続法第2章が適用される。

(とくに行政手続法第8条が重要である。不開示決定および部分開示決定(=一部不開示決定)については、不開示としたことについて行政機関の長が理由を示さなければならない。)

 

 

  一方、義務についての一般的な規定はないが、手続として第4条に規定がある(行政手続法よりも申請人の保護に厚い)。情報開示請求権者は、開示請求書という書面によって請求をするのであるが、その際、氏名、住所などの記載、行政文書の名称など、開示を請求しようとする行政文書を特定しうる事項の記載が求められる。法律上はこれらの記載のみで十分であり、その範囲を超える記載を行政機関から求められたとしても拒否できると理解すべきである。逆に言えば、行政機関は、第4条に定められていない事項を要件として記載することを情報開示請求権者に強要することは、情報開示請求権者に萎縮効果などを生じさせかねず、情報公開法の趣旨からして許されないと理解すべきである(ただ、実際には第4条の範囲を超える記載などを求める省庁が存在する)。

 

 開示請求権=個人の権利であり、裁判上の救済を受ける。

      

  開示請求の手続:行政機関情報公開法第4条(行政手続法よりも申請人の保護に厚い)

 ②行政機関の開示義務

 原則:行政機関の長は、請求された行政文書を開示する義務を負う(行政機関情報公開法第5条)。

例外:第5条各号に定められた情報は、開示してはならない(不開示情報)。この点について、原則として行政機関の長に裁量は認められないが、第7条により、公益上特に必要であるとして開示することが認められる場合がある。

 ③不開示情報とされるもの(第5条各号)

 情報公開法第5条各号は、不開示情報を定めている。各号ごとにみていくこととする。

 第1号:個人情報。個人が識別されうるものであれば、原則として不開示である。

     個人情報⇒定型的に不開示とする個人識別型を採用

 個人情報であるから不開示とするのではなく、プライバシーとして保護に値するならば不開示とするタイプ(プライバシー型)もある。

     個人情報でありながら不開示情報とされないものは、イ~ハに列挙される。

     ▲公務員の職および職務遂行に係る情報の扱い

      行政機関情報公開法:公務員の職および職務遂行の内容に係る情報を開示情報とする(氏名は含まない)。

 但し、慣行により、人事異動などの際に課長以上の職であれば氏名も開示される。

 地方公共団体の条例:職務遂行に関する情報である場合については、公務員の職はもとより、氏名も開示情報とする場合が多い。

 最三小判平成15年11月11日民集57巻10号1387頁(Ⅰ-41)、最三小判平成19年4月17日判時1971号109頁(Ⅰ-43)を参照。

 第2号:法人の情報および個人の事業に関する情報(イおよびロに掲げられた事由に限定される)。

     イの「正答な利益を害するおそれのあるもの」=実際に「おそれ」が実際に存在したか否かについては裁判所の審査に服する。

     ロ=いわゆる任意提供情報で公にしないという条件が付されたもの。

 第3号:国の安全等に関する情報。

     「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」:この判断については行政機関の長の要件裁量が認められる。従って、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する。

 第4号:公共の安全と秩序の維持に関する情報(司法警察活動に関する情報)

     「おそれがある」か否かについての判断=行政機関の長の要件裁量が認められるので、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する。

 第5号:行政機関などの内部または相互間での審議、検討または協議に関する情報(意思形成過程情報)。裁判所の全面的な審査が及ぶ。

 第6号:事務事業情報。裁判所の全面的な審査が及ぶ。

 ■不開示情報については、審査基準を設定し、公表しなければならない(行政手続法第5条)。

 ④開示・不開示の判断

 原則:開示決定(行政機関情報公開法第5条)。

 例外:不開示決定。

 ・全部不開示決定=申請に対する拒否処分

 ・部分開示決定(行政機関情報公開法第6条第1項)=申請に対する一部拒否処分

 ・氏名など、個人識別情報を除外しての開示処分(第6条第2項)

 ・存否応答拒否処分(第8条。グローマー条項)=開示請求の対象となっている文書の存否そのものを回答するだけで、開示請求の目的が達成される場合に、行政機関の長は、文書の存否を明らかにすることなく、開示請求を拒否することができる。

 存否応答拒否処分は、アメリカの判例法で形成されたものである。CIAと国防総省が、当時のソ連の潜水艦グローマー・イクスプローラ号を合同で引き揚げようとした計画が存在した。この計画について開示請求がなされた際に、記録の存否に関する応答が拒否されたという事件が生じた。1981年、連邦最高裁判所判決は応答の拒否を妥当と解した。この事件がきっかけとなり、存否応答許否処分を定める規定をグローマー条項というようになった。

 ▲裁量的開示処分(第7条。例外の例外を認める)

 ⑤第三者に対する意見書提出の機会の付与

 第13条に定められる。開示請求の対象となった行政文書に第三者の情報が記録されている場合に、行政文書の開示によって不測の権利侵害などが生じる可能性も否定できないために、当該第三者の意見書の提出などの機会を定めている。

 第1項:行政機関の長の裁量事項

 第2項:行政機関の長の義務的事項

 ⑥その他、開示決定・一部開示決定・不開示決定のいずれも要式行為である(第9条)。また、期間は、開示請求があった日から原則として30日以内とされている(第10条第1項)。

 (5)一部開示決定・不開示決定に対する救済措置

 ①救済措置を申し立てることができる者

 開示請求者=開示請求権を有する☞不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。

 その他の個人や法人:情報公開法によって保護される利益がある限り、情報公開法第13条・第19条・第20条にいう「第三者」として、不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。

 ②救済制度その1  行政事件訴訟

 行政機関情報公開法に特別の規定が存在しないので、行政不服審査制度を利用することなく、直ちに、行政事件訴訟法に定められる抗告訴訟を提起することができる。

 a.取消訴訟  従来から認められている。これは、開示請求者にも「第三者」にも認められる。

 b.義務付け訴訟  行政事件訴訟法の改正によって明文で認められた(第3条第6項第2号)。

 c.差止訴訟  「第三者」が開示決定について提起することができる(第3条第7項、第37条の4)。

 ③救済制度その2 行政不服審査制度

 基本的には行政不服審査法の規定によるが、情報公開法には特別な手続が規定されている。

 a.不服申立てがなされた場合、第18条第1号・第2号に規定されている場合を除き、行政機関の長は「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問する。

 b.諮問した旨を、不服申立人などに通知する(第19条)。

 c.諮問を受けた審査会は、審査の結果を答申として示すことになるが、答申の写しは不服申立人などに交付され、一般に公表される(情報公開・個人情報保護審査会設置法第16条)。

 d.答申を受けた行政機関の長が、最終的に不服申立に対して裁決または決定を行う。行政機関の長は、審査会の答申に法的に拘束されないが、尊重される必要がある。

 ④情報公開・個人情報保護審査会(内閣府に設置される機関)

 権限:行政機関情報公開法第18条、独立行政法人情報公開法第18条第3項、行政個人情報保護法第42条および独立行政法人等個人情報保護法第42条第3項による不服申立てについての調査・審議

 委員:15名。両議院の同意を得て内閣総理大臣によって任命され、原則として非常勤(但し、5名以内を常勤とすることも可能)。任期は3年で、再任可能である。また、守秘義務が課されている。

 ■情報公開・個人情報保護審査会の調査権限(情報公開・個人情報保護審査会設置法第9条)

 α.諮問庁(不服申立を受けた行政機関の長)に対し、行政文書または保有する個人情報の提供を求めることができる(諮問庁はこれを拒むことができない)。

 ☞インカメラ審理が認められる。これは、裁判官にも認められていない権限である。最一小決平成21年1月15日民集63巻1号46頁(Ⅰ-45)は、裁判所でのインカメラ審理が民事訴訟の原則に反するとして、明文の規定がない限りは訴訟における証拠調べとしてのインカメラ審理を裁判所が行うことは許されないと判示した。

 β.諮問庁に対し、行政文書等に記録されている情報、または保有する個人情報に含まれている情報の内容を、審査会の指定する方法によって分類または整理した資料を作成し、提出することを求めることができる(ヴォーンインデックスの作成の指示権)。

 γ.不服申立人などに対して資料の提出や意見の陳述を求めることもできる。なお、調査審理手続は非公開である(設置法第14条)。

 

3.情報公開に関する判例

  (情報公開法については判例がほとんど蓄積されていないので、以下は情報公開条例に関する判例を紹介しておく。なお、最近の公務員試験においては出題例がほとんど存在しない。)

 (1)最一小判平成6年1月27日民集48巻1号53頁(大阪府知事交際費公開請求訴訟、Ⅰ―40)

 事案 大阪府の住民等であるXらは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和60年1月から3月までの大阪府知事の交際費に関係する文書の公開を請求した。これに対し、知事Yは一部を公開したが、債権者の請求書および領収書、歳出額現金出納簿、支出証明書について、同条例第8条第1号・第4号・第5号、第9条第1号に該当するとして非公開とした。大阪地判平成元年2月14日判時1309号3頁はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高判平成2年10月31日行集41巻10号1765頁は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所第一小法廷は破棄差戻判決を下した。

 判旨:「知事の交際費は、都道府県における行政の円滑な運営を図るため、関係者との懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費である。このような知事の交際は、懇談については本件条例八条四号の企画調整等事務又は同条五号の交渉等事務に、その余の慶弔等については同号の交渉等事務にそれぞれ該当すると解されるから、これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否かは、これらの情報を公にすることにより、当該若しくは同種の交渉等事務としての交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か、又は当該若しくは同種の企画調整等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ適正に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定されることになる。」

 「知事の交際事務には、懇談、慶弔、見舞い、賛助、協賛、餞別などのように様々なものがあると考えられるが、いずれにしても、これらは、相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的して行われるものである。そして、相手方の氏名等の公表、披露が当然予定されているような場合等は別として、相手方を識別し得るような前記文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば、懇談については、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、今後府の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ、また、一般に、交際費の支出の要否、内容等は、府の相手方とのかかわり等をしん酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから、不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに、これらの交際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事例ごとに、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には、知事においても前記のような事態が生ずることを懸念して、必要な交際費の支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって、本件文書のうち交際の相手方が識別され得るものは、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の氏名等を公表することによって前記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き、懇談に係る文書については本件条例八条四号又は五号により、その余の慶弔等に係る文書については同条五号により、公開しないことができる文書に該当するというべきである。」

 「本件における知事の交際は、それが知事の職務としてされるものであっても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。本件条例九条一号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが、知事の交際の相手方となった私人としては、懇談の場合であると、慶弔等の場合であるとを問わず、その具体的な費用、金額等までは一般に他人に知られたくないと望むものであり、そのことは正当であると認められる。そうすると、このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表、披露されることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきである」。

 (2)最三小判平成6年2月8日民集48巻2号255頁(大阪府水道部文書公開請求訴訟または大阪府食糧費情報公開訴訟)

 事案 大阪府の住民であるXは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和59年12月に行われた大阪府水道部の会議接待費および懇談会費についての公文書の公開を請求した。これに対し、Yは、この請求に対応する文書を支出伝票、債権者の請求書および経費支出伺と特定した上で、同条例第8条第1号・第4号・第5号に該当するとして非公開とした。Xは異議申立てを行ったがYは棄却の決定を行った。このため、Xが出訴した。大阪地裁平成元年4月11日判例タイムズ705号129頁はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高判平成2年5月17日判時1355号8頁は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所第三小法廷は、Yの上告を棄却した。

 判旨 「本件文書には飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件文書の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないと」。

 「本件文書に記録されている情報は、府水道部の懇談会等に関するものであるが、このような懇談会等の形式による事務は、前記のとおり、単なる儀礼的なものではなく、すべて府水道部の事務ないし事業の遂行のためにされたものであって、その内容いかんにより、四号の企画調整等事務ないし五号の交渉等事務に該当する可能性があることは十分考えられる。しかし、右情報は、前記のとおり、懇談会等の開催場所、開催日、人数等のいわば外形的事実に関するものであり、しかも、そこには懇談の相手方の氏名は含まれていないのがほとんどである。このような会合の外形的事実に関する情報からは、通常、当該懇談会等の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等の内容が明らかになるものではなく、この情報が公開されることにより、直ちに、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは断じ難い」。本件懇談会等に関する文書を公開することにより、大阪府公文書公開等条例8条4号・5号にいう事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるというためには、「上告人の側で、当該懇談会等が企画調整等事務又は交渉等事務に当たり、しかも、それが事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書に記録された情報について、その記録内容自体から、あるいは他の関連情報と照合することにより、懇談会等の相手方等が了知される可能性があることを主張、立証する必要があるのであって、上告人において、右に示した各点についての判断を可能とする程度に具体的な事実を主張、立証しない限り、本件文書の公開による前記のようなおそれがあると断ずることはできない」。

 (3)最二小判平成6年3月25日判時1512号22頁(京都府鴨川ダムサイト情報公開訴訟、Ⅰ―42)

 事案 京都府知事Yは、鴨川の河川管理者であり、鴨川の改修計画について幅広く意見を聴くために鴨川河川協議会を設置した。この協議会においてダムサイト候補地点選定位置図(以下、本件文書)が提出された。そして、協議会が終了した後、ダム構想の存在と先の位置図が提出されたことが記者会見で発表された。これを知ったXは、京都府情報公開条例に基づいて本件文書の公開を請求したが、Yは、これが条例第5条第6号に規定される意思形成過程情報に該当するとして非公開の決定をした。なお、本件文書は初期の段階の資料であり、地質などの自然要件や用地確保の可能性などといった社会的条件については全く考慮されていなかった。

 京都地判平成3年3月27日判タ775号85頁は、Yの処分を違法とした。これに対し、大阪高判平成5年3月23日判タ828号179頁は、Yの処分が相当であるとしてXの請求を棄却した。この判決は、理由として、本件文書が「ダム構想が構想として成立し得るかどうかの検討資料とするため、京都府土木建築部河川課(協議会の庶務を処理する部課)が鴨川流域において貯水が可能な地形を二万五〇〇〇分の一の地形図から読み取り、それを流域図に示したものにすぎず、ダムサイト候補地選定の重要な要素となる地質・環境等の自然条件や用地確保の可能性等の社会的条件についての考慮を全く払うことなく、作られたものである」こと、前記記者会見の後に「後協議会委員に対し、ダム建設について、交渉を申入れる団体や面談を強要する者があり、また、協議会委員宅に無言電話があり、また、電話で種々強い調子で申し入れをする者が現れ、委員の中には、その職を辞任したい意向を示す者がいた」ことなどをあげ、本件文書を「いわば協議会の意思形成過程における未成熟な情報であり、公開することにより、府民に無用の誤解や混乱を招き、協議会の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるものといえる」と判断している。

 判旨 最高裁判所第二小法廷は、大阪高等裁判所の判断を正当として是認し、京都府情報公開条例第5条第6号が憲法第21条などに違反するというXの主張を退けた。

 

4.個人情報保護

 (1)個人情報保護制度

 ①個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)

  個人情報保護に関する基本法(第1章~第3章)

  民間部門の個人情報保護に関する一般法(第4章~第6章)

 ②行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政個人情報保護法)

 ③独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(独立行政法人個人情報保護法)

 ④情報公開・個人情報保護審査会設置法

 ⑤行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等による法律

 (2)行政機関個人情報保護法の目的

 第1条:行政の適正かつ円滑な運営/個人の権利利益の保護

 (3)行政機関個人情報保護法の対象機関

 行政機関情報公開法の対象機関と同じである(第2条第1項を参照)。

 (4)個人情報などの意味

 ①個人情報

 「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう」(第2条第2項)。←行政機関情報公開法における個人情報と同様である。

 ②保有個人情報

 「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして、当該行政機関が保有しているもの」(第2条第3項)=行政機関情報公開法にいう「行政文書」に記録されているもの。

  ③個人情報ファイル(第2条第4項、第10条、第11条)

 第2条第4項;保有個人情報を含む情報の集合物で、コンピュータなどによって検索が可能であるように体系的な構成がなされたものとされている。

 第10条;個人情報ファイルを保有しようとする際の、総務大臣への事前通知の義務(変更についても事前通知の義務が課される)

 第11条;保有している個人情報ファイルについて帳簿(個人情報ファイル簿)を作成し、公表する義務(第1項。第2項および第3項も参照)

 (5)取扱基準(第3条以下)

 個人情報の取り扱いについては、第3条以下に規定されている。

 ①保有の制限、特定(第3条)  利用目的の達成に必要な範囲を超えてはならない、など。

 ②利用目的の明示(第4条)

 ③正確性の確保(第5条)

 ④安全措置の確保(第6条)

 ⑤従事者の義務(第7条)

 ⑥利用および提供の制限(第8条)  但し、第2項により、一定の要件の下において利用目的外の利用を認める。

 (6)行政個人情報保護法と個人の権利

  ①開示請求権(第12条) 本人はもとより、未成年者または成年被後見人の法定代理人にも認められるが、開示すれば本人に不利益が及ぶおそれがある場合には不開示となる(第14条第1号)。

 原則は開示であるが、第14条各号により、不開示事由が定められる(限定列挙)。第1号以外は、ほぼ情報公開法と同様の事由が定められている。裁量開示も認められる(第16条)。

 なお、情報公開法と同様に、部分開示(行政個人情報保護法第15条)、そして存否応答拒否処分(同第16条)も定められている。

 ②訂正請求権(第27条、第29条)

 ・開示請求が行われることを前提とする。請求を受けて開示された自己の本人情報が事実でないと思料するときに、訂正(追加または削除を含む。以下同じ)を請求する権利である。行政機関の長は、請求に理由があると認めるときに訂正をしなければならない(第29条)。

 ・訂正を要求しうる本人情報は、次のものに限定される。

  第27条第1項第1号:「開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報」

  同第2号:「第二十二条第一項の規定により事案が移送された場合において、独立行政法人等個人情報保護法第二十一条第三項に規定する開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報」

  同第3号:「開示決定に係る保有個人情報であって、第二十五条第一項の他の法令の規定により開示を受けたもの」

 ・訂正請求は、「保有個人情報の開示を受けた日」から90日以内に行わなければならない(同第3項)。

 ③利用停止請求権(第36条)

 保有個人情報の開示を受けた日から90日以内に請求しなければならないとされる。

 a.保有個人情報の利用の停止または消去:保有個人情報が行政機関によって適法に取得されたものではない場合、第3条第2項に違反して保有されているとき、または第8条第1項・第2項の規定に違反して利用されているとき

 b.保有個人情報の提供の停止:第8条第1項・第2項の規定に違反して提供されているとき

 (7)救済制度(第42条)

 情報公開法と同様の規定であり、行政不服申立てについても情報公開・個人情報保護審査会への諮問手続が明示されている。


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