今年の12月4日に、留萌本線の留萌〜増毛が最終運行を迎えます(翌日が廃止日です)。1980年代の特定地方交通線の廃止を典型的な例として、北海道では鉄道路線の廃止が相次ぎ(例、1995年の深名線、2006年の北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線、2014年の江差線の木古内〜江差)、駅の廃止も相次ぎました。今年3月のダイヤ改正では、札沼線の末端区間である浦臼〜新十津川がたったの一往復になるなど、減量が非常に目立ちます。日高本線の鵡川〜様似も運休したままです。
2016年5月27日12時21分46秒付の「JR北海道、特急の運転区間短縮などを提言へ」において紹介したように、JR北海道は、今年の4月に地域交通改革部を設置しました。鉄道事業の縮小、すなわち、鉄道路線の廃止や駅の廃止を進めていくためでしょう。何らかの動きがあるとは予測できたところですが、7月29日、JR北海道の島田修社長は鉄道事業の抜本的見直しを正式に表明しました。産経新聞社も29日の20時42分付で「JR北海道、維持困難線区を秋にも公表 地元と協議へ『経営極めて厳しい』」(http://www.sankei.com/economy/news/160729/ecn1607290062-n1.html)として報じていますが、やはり北海道新聞社が7月30日6時50分付で報じた「16区間維持困難か JR北海道事業見直しへ 地元と協議目指す」(http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/economy/1-0298769.html)のほうが詳しいので、基本的に後者に拠りつつ、記していきます(なお、全文を読もうとするとIDとパスワードを要求されるので、今回は一部分のみ読みました)。
社長の表明では具体的な言及が避けられたようですが、この秋までにJR北海道「単独では維持困難な線区」を公表することになります。その上で、当該線区について沿線自治体と協議に入る模様です。北海道新聞社は「厳しい経営状況を踏まえて輸送密度2千人未満の線区を対象にするとみられ」ると想定しており、「JRは今回の提案を、国鉄分割民営化で会社が発足して以来の改革と位置付けており、道内鉄道網の見直しが一気に進む可能性もある」とも記しています。
輸送密度2000人未満というと、1980年代の第一次特定地方交通線と同水準と考えてよいでしょう。この時も北海道での廃止路線が多くなりました。2014年度の輸送密度が記事の図に示されていますが、次の通り、かなり深刻な状態です。
500人未満:留萌本線の全線(深川〜留萌〜増毛)、宗谷本線の名寄〜稚内、釧網本線の全線(網走〜東釧路)、根室本線の滝川〜富良野〜新得および釧路〜根室(花咲線と言われる区間)、日高本線の全線(苫小牧〜様似)、札沼線の北海道医療大学〜新十津川、石勝線の新夕張〜夕張(夕張支線)
500人以上2000人未満:函館本線の長万部〜小樽、室蘭本線の沼ノ端〜岩見沢、富良野線の全線(旭川〜富良野)、宗谷本線の旭川〜名寄、石北本線の全線(新旭川〜網走)
2000人以上:江差線の五稜郭〜木古内(現在は道南いさりび鉄道の路線)、海峡線の全線(中小国〜木古内。現在は北海道新幹線の一部であるが、貨物路線などとして残る)、函館本線の函館〜長万部および小樽〜旭川、室蘭本線の長万部〜沼ノ端、千歳線の全線(沼ノ端〜白石および南千歳〜新千歳空港)、石勝線の南千歳〜新得、根室本線の新得〜釧路、札沼線の桑園〜北海道医療大学
不明:室蘭本線の東室蘭〜室蘭(2000人以上?)
北海道新聞社は11路線16区間としていますが、区間数が合いません。数え方などが異なるのかもしれません。路線数は合っていますので、ここは話を先に進めましょう。
仮に輸送密度2000人未満の路線を廃止するということになれば、留萌本線、宗谷本線、釧網本線、日高本線、富良野線、石北本線の全線が廃止されるということになります。函館本線の長万部〜小樽については、北海道新幹線の延伸に伴い第三セクターなどへの移管も考えられますが、引き受け手があるのかどうかわからず、廃止の可能性も否定できません。これらの路線の全線が廃止されないとしても、大幅な減便、駅の廃止などは避けられないでしょう。
元々人口が少なかった上に、札幌市への人口集中、いっそうの過疎化、少子高齢化、モータリゼイションの進展などで、JR北海道には黒字路線が一つもないだけでなく、一部の路線を除いて乗降客の減量が著しくなっています。また、九州と同様に高速バスなども発達しているようで、鉄道よりもバスのほうが利便性が高いという地域も少なくないようです。それで鉄道の存続を要求するというのはどういうことなのか、という疑問が、その地域に対して寄せられるべきです。鉄道の存続を求めるならば、まずは自家用車と高速バスの利用を止めなさい、と。それができないのであれば、鉄道の廃止は仕方のないところです。何故なら、口では廃止反対を叫んでも、態度が異なっているからです(不要であると口にしないだけでしょう。交通問題についての言行一致は10代の人くらいでしょうか?)。
また、JR北海道の場合、除雪費用などの問題もあります。発足以来、三島会社の一つとして、経営基盤が脆弱であると見られてきました。そのためなのか、安全対策費や修繕費について先送りが続けられました。ここ数年頻発した重大事故の原因と考えてよいでしょう。当然、先送りにすればするほど、これらの費用はかさみます。車両ならば新車に変えればよいだけのことですが(これも大変な費用が必要なことではあります)、線路、信号、トンネル、橋などについては、そう簡単に新品に変えればよいということになりません。まして、酷寒の地ですから耐用年数なども短くなるでしょう。整備や修繕には他の地方よりも多くのお金がかかるはずです。
現在、JR北海道が走らせているのは火の車、というのは悪い冗談になってしまって申し訳ないのですが、2017年3月期には経常損益がマイナス175億円程度になると見られています。今後もこれより赤字は減らないというのです。そうなると、輸送密度の低い路線は赤字の垂れ流し以外の何物でもないとして廃止の対象として検討されざるをえません。北海道新聞社の記事によると、輸送密度2000人未満の路線の赤字が合計で200億円ほどであるようです。そもそも、輸送密度2000人未満では鉄道路線を運行するだけの意味に乏しく、JR北海道が単独で路線を維持することも相当に困難でしょう。他の地方の私鉄では、これより密度が高い路線でも廃止になったりしています。地域の差、個別の事情を考慮に入れるとしても、一日あたりの乗降客数が一桁という駅を多数抱えているような路線では、どれだけの存在意義かを問われかねません。
もっとも、まだ詳細は公表されていません。上にあげた輸送密度2000人未満の路線・区間でも、存続するところもあるかもしれません。ただ、500人未満の路線は廃止が前提とされるでしょう。
いずれにせよ、「単独では維持困難な線区」が公表されたら「沿線自治体への経営状況の説明に着手し、線区ごとに協議会の設立などにつなげ」るのでしょう。いきなり廃止を提案することもありえますし、存続のための条件闘争に持ち込まれることもあるでしょう。北海道新聞社は、JR北海道が「協議では、減便、運賃引き上げ、駅や鉄道施設を自治体などが保有しJRは運行に専念する『上下分離方式』など幅広い提案を行い、路線維持の可否を相談する。その上で、廃止に伴うバス転換なども検討する」と書いています。この点では特定地方交通線の時よりもマイルドな手法を採るということでしょうか。
いずれにしても、差し迫った事態となっていることは否定できません。仮に、輸送密度2000人未満の路線が存続するとしても、廃止は時間の問題であることに変わりはないでしょう。実際に、深名線は特定地方交通線に指定されそうになったところを、沿線の道路事情を理由に存続したのですが、結局廃止されました。北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線は、北海道において特定地方交通線に指定されながら第三セクター化されて存続した唯一の鉄道路線ですが、存続に無理があったとも言えますし、地元自治体が覚悟を決めても存続が困難であることが多いということを改めて示しました(地元の反対により、極端に利用客が少ない駅の廃止を進められなかったことも、小さいながら一つの問題ではあったでしょう)。路線バス化も、地域にとっては問題の先送りのようなものです。どちらに転んでも難しい問題ではあります。
廃止決定済の2区間(留萌-増毛、木古内-江差)を除けば
11路線16区間で合いますよ
・札沼線(医療大学-新十津川)
・石勝線(新夕張-夕張)
・根室線(富良野-新得、釧路-根室、滝川-富良野)
・留萌線(深川-留萌)
・日高線(苫小牧-様似)
・宗谷線(名寄-稚内、旭川-名寄)
・釧網線(東釧路-網走)
・室蘭線(沼ノ端-岩見沢、室蘭-東室蘭、)
・函館線(長万部-小樽)
・石北線(上川-網走、新旭川-上川)
・富良野線(富良野-旭川)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/160210-1.pdf
また、私が参照した記事の地図ではわかりにくかったのですが、やはり室蘭〜東室蘭も入っていたのですね。支線なので「入っているだろう」とは思っていました。
正確に距離を測った訳ではないのですが、11路線16区間は、現在のJR北海道の路線のうち、半分以上になるでしょうか。宗谷本線と石北本線は、それぞれ複数の区間に区切られているとは言え、全区間が入っています。実際には、それぞれの区間毎に、今後の在り方が判断されるのでしょうが、沿線自治体にとっては「どうなることか」と不安を抱くはずです。
鉄道を廃止して代替バスとなると、たしかに路線によっては細切れ状態になります。ただ、これは、都道府県によって事情が異なっていたようです。全県単位で路線バス運営会社が統一されているところもあれば、地域毎に異なる場合もあるからです。もっとも、代替バスも運営が上手くいかなくなり、自治体のコミュニティバスなどになってしまい、ますます細切れ状態になっていることは否めません。